第5話日程4 竜の通り道 危険度★★★ その2

「ミコトちゃ~ん。心臓がバクバクする。一刻も速くカバンをギブ!」

 荒い息使いで、暴舞が捲し立てる。

「落ち着け。飲み物だったら――」

「はい、これ」  

 相武が、手近に置いていた黒色のショルダーバックを手渡した。

 暴舞ゴソゴソと鞄をまさぐる。


「よし、君にきめた」

 暴舞ミツキは一対のヌンチャクを取り出した。


「はぁ!?」

 玩具とかってレベルの品物ではない。重厚な金属製。しかも相当に使い込まれている。

 度肝を抜かれたのだろう。無言のまま相武がおそるおそる鞄をのぞき込む。

「……ミツキ、銃火器はないの? ジゲン大先生のコンバット・マグナムは?――。だったら冴羽先生のコルト・パイソンは?――。ああっもう! だったら、ウインチェスター兄弟のコルトはないの?」

 ん?


「致し方ないよ、ミ・コ・トちゃ~ん。手荷物検査くらいあると思ったから、引っ掛かりそうなものは押入れにぶち込んできた」

 歯噛みする相武を尻目に、暴舞が服を脱ぎ始める。暴舞の様子がおかしい。口調もどこかチグハグだし。

「――ほら、カワイイ子猫ちゃん、これで昇天しちまいな」

 青いチャイナドレス姿の暴舞が、手のひらサイズの物体を相武にほうり投げる。

「なにこれ?」

「スタンガン。魔改造してあるから取り扱いには気をつけな」

 相武は怯える様子もなく電気シェーバーのようなフォルムのスタンガンを念入りにチエックしている。


「三回ってところか。ふふっ、レイガンみたい」

 相武の腕の中で、バチンっと紫電がはぜる。

「そろそBBAがくたばりそうだ。アタイは先に行くよ――」

 暴舞がチャイナドレスの裾に手を伸ばし、躊躇うことなく引き裂く。ガーターベルトに装着された小型の刃物が鈍く光っている。そして、三つ編みを解きながら

「偉大なる師父BRUスリー、ジャッキーCHAN……。我は一対のヌンチャク、イー、アール、サン、シー、スウー、ウー。ARUARUARUARUARUARU!!!――」

 暴舞が、ヌンチャクを振り回しながら敵地に突入する。投げ捨てられたメガネが何とも物悲しい。


「先生は、狩りができる? ハンターとかなら有難いけど……そんな奇跡に価値はないか……先生は死なないわ。だって、私が守るもの」

 色々と突っ込みどころ満載で、偏頭痛がする。どうやら相武は俺を守るために拠点防御に徹するようだ。

 

バタバタと地面に倒れていく幼竜の姿をみてふと思う。実は、異世界天然記念物とかに指定されていたりして……。バスツアーで遭遇できるくらいだ。竜なんてそこら中に生息しているに違いない。違いない。そう、これはあれだ、弱らせてボールを投げるみたいな。

大人気ポケットゲームモンスター。略してポゲモン。数の暴力は事象を捻じ曲げる。本質は変わらない。要は、捉えるほうの問題だ。きっと、俺が感じる以上に社会は歪にできているのだろう。 

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