第7話 精霊契約

 バカだバカだとは思っていたけれどここまでバカだとは思っていなかった。

 ある意味新鮮だわ。



 『精霊契約』それは精霊と人間が共歩むために、はるか昔人間の王と精霊の王が生み出した心の魔法だと言われている。


 まぁ、堅苦しいのは良く分からないけれど、早い話『精霊は契約者から魔力の供給を受ける代わりに、契約者に自らが持つ属性の加護を与える』と言う事。


 ただね契約ってのはお互いの意思が重要なわけですよ。前世で例えるなら何かを始めたり決めたりするときに契約書を取り交わすでしょ? そこには当然互いの利益や同意が存在する、つまり精霊と人間との契約にも互いの同意が存在する訳なんです。


 目の前のおバカさんは籠に入れられた精霊と契約すると言ってるけど、どこの世界に閉じ込めた相手と契約するって言うんですか。

 しかも名前を決めてるですって? 精霊たちにもちゃんと名前があるんです。別に隠しているわけではないそうなんですが、警戒心の強い精霊は信頼した相手にしか名前は教えてくれないんです。


 リリーの場合は生まれたてだったので私が付けてあげたんだけど、普通は精霊契約の途中で、お互い意思疎通が出来ていれば自然と頭に名前が浮かんでくるんです。

 それなにの勝手に名前を決めたですって? 精霊だってちゃんと心があるんですよ、誰だって自分の名前を変えられたら怒るに決まってるじゃないですか。





「あの~ロベリア、いろんな意味で契約は無理だと思うよ?」

 無理だとは思うけれど取りあえず注意はしてみた。私頑張った。


「なんですの! 私の邪魔をするおつもり!」

 はいはい、わかってたよ説得しようとした私がバカですよ。


「自分がちょっと精霊持ちだと思って好い気になっているんじゃないの! あぁ、そいうことね。私が貴方より目立っていることが気に入らないのね」

 何を言ってるんだろうこの娘は、誰が好き好んで目立ちたい人間がいると思うのよ。


「そう言うことじゃなくてね、精霊契約にはお互いの意思が通じ合わないと出来ないのよ」


「……え? ……も、もちろん知っておりますわ。そもそも低俗の血を引く貴方に出来て、高貴な血を引く私に出来ない筈がありませんわ」

 今『え?』っとか言ったよね。やっぱり知らなかったんだ。

 それにしても低俗な血ってお母様の事を言っているのだろうか? 私的にはお母様が以前どんなお仕事をされていたかなんて全く気にしていない。だって愛情は十分すぎるほど頂きましたから。

 あっ、もちろん契約に血筋は関係ないですよ?


 前からこのおバカは私が何を言っても文句を言うのよ、この学園に転校してからそろそろ一年が経とうとしているのに、未だに私を目の敵にしているんだから。そんなツンツンしてて疲れないのかしらね。


「はぁ、もう何が起こっても自分で責任取りなさいよ」

「そんな事貴族として当然ですわ」

 何を言っても無駄なようなので、私は諦めて静観する事に決めた。まぁ、始めから説得は無理だとは思っていたけれど、自分で責任を取ると言うのだからここは見学させてもらいましょ。





「せいれい王のした、わがとなんじ、と契約をのぞむものなり

たがいの、いしのした、共にあるき、ともにがくぶ事を、ここに願う

えっと、たがいの思いのした、共にたすけ、共にささえ、あう事をここにちかう

けいやくをのぞむ? もの、わたしの名前はロベリア、

けいやくをたすけるもの、なんじの名前はランスロット!」


(……ぷっ)

 ちょっとまって、いろいろツッコミ処満載なんだけれどまず私と同じ歳よね?

 メモ書きをチラチラ見るのはこの際大目に見よう、だけど簡単な近代型古代文字すら読めないの?


 近代型古代文字とは言葉の通り古代文字を書きやすいよう近代型に簡略した文字。

 古代文字って現代の言葉に訳すと意味が変わってしまうものが多く、簡略した近代型文字に置き直して現代文字と併用して使用しているんです。

 前世の記憶で解りやすく説明するならひらがなが現代文字、漢字が近代型古代文字と言うわけ。

 もちろんこの国でも近代型古代文字は普通に使われているし、学園でも当然習う。


 今ロベリアがおこなった儀式は息継ぎの箇所がおかしいし、近代型古代文字の読み間違えで意味が変わっていたところがあった。もちろん途中に『えっと』なんて言葉は含まれていない。

 親切に読み間違いの箇所を教えてあげたいけど、どうせまた文句を言われるだけだろうからこのまま傍観させてもらうが、流石にもう少し勉強した方がいいんじゃない?




 さて結果から言うともちろん失敗した。

 あれで成功したら橋の上から道頓堀でも飛び込もう、いや今は禁止されてたっけ。良い子はマネしちゃダメよ。


「これで契約できたのかしら?」

 いやいや出来てないから。

 失敗は失敗、ここで終われば何事もなかったのかもしれない。だけどこのおバカさんは更にやらかした。


 パカッ

「さぁ出ておいでランスロット」


 先ほども言ったけど精霊たちにも意思があり心がある。当然意味もなく閉じ込められていたら『怒る→自由になる→暴走』となるわけだ。


「ちょ、ちょっと!」

 止めに入った時にはすでに遅く、二人の精霊はカゴから飛び出していた。


「テメェらこんな箱に閉じ込めやがってタダで済むと思うな!」

「だれがランスロットだ、そんな恥ずかしい名前名乗れるかよ!」


「そこっ!?」

 思わずツッコミを入れてしまった。

 前世は関西に住んでいたのでツッコミは日常茶飯事と言うもの、この辺りは見逃して欲しい。


「な、何よ、私が主人あるじよ! ランスロットのどこがいけないのよ!」

「いやいや、今は名前がどうのと言ってる場合じゃないから! 早く逃げなさい」

 忘れてるかもしれないけれど精霊さん達は魔法がつかえるんだよ。

 流石に死ぬような魔法は使わないだろうけど、軽い怪我程度では済まないかもしれない。それに周りには多くの貴族達のご子息ご令嬢がいるのだ。もしこのまま放置しておけば、伯爵家の庇護の元で通っているロベリアが起こした事故として、伯爵家が損害賠償を負担しなければならない事態になりかねない。


「燃えちまえ!」

「きゃっ!!」

 ってやっぱりそうなるよね。


「あぁもう! 風壁ふうへき!」

 炎の魔法がロベリアに差し掛かる直前で、風で作った壁が炎をさえぎる。


 下から上へと上昇気流を操ったから女の子のスカートが大変な事に……なんかごめんなさい。


 もともとそれほど強力な魔法ではなかったみたいだけど教室内は生徒がいっぱい。女の子たちには悪いけど風で炎を天井で固め窓から外へと追い出す。

 ちなみにロベリアは青色のフリフリおパ○ツでした。


 あぁしんど。細かな微調整は大変なんだからね!


「ストップ、ストップ。ごめんね精霊さん怒る気持ちはわかるけど、ここには無関係な人もたくさんいるから殺るならどこか別の場所でしてよね」

「ひぃ!」

 あれ? 何故かロベリアさんが怯えています、そっか炎が怖かったんですね。わかりますよその気持ち。


「おい姉ちゃん、今のはあんたがしたのか?」

「姉ちゃん、いま言葉の裏に殺すって文字がみえたんだが。」


 バコン!

「「 イテッ! 」」


「誰が姉ちゃんですか! 私にはアリスって名前があるんですよ。やり直し!」

「「 ハ、ハイ! すみませんアリス様! 」」

 あれ? なぜ様付け?


「コホン、とにかくごめんなさい。私たちは貴方達に危害を加えるつもりはないわ、信じてもらえないとは思うけれど」

「ま、まぁ、そこまで言うなら許してあげなくもないぜ」

「ないぜ」

 二人の精霊は私の前で腕を組みふわふわと浮きながら答えた。

 なんだか急に態度がデカくなったわね。


「ありがとう、このバカには言い聞かせておくからもう自由にしていいわよ、じゃね」

「まてまて、まだ完全に許すとはいってねぇじゃ……ありませんです!」

「で、です!」

 あら、少し殺気を込めて睨んだだけで急に大人しくなったわね。


「分かったわ、何をすれば許してもらえるのかしら? 人肉? 生き血?」

「ひぃ!」

「「怖いわ!」」

 さすが双子、息がピッタリね。素敵な提案だったのに全否定されてしまったわ。


「わがままね、それじゃ何がいいのよ」

「俺たちと契約する事が条件だ」

「条件だ」

「なんだ、そんな事でいいの?」


「「えええ! いいの?」」

 自分たちが言っておいて何驚いてるんだか。


「いいわよ別に。でも三人も同時に契約できるのかしら?」

「それなら大丈夫だと思うぜ、ねえちゃ……アリス様は魔法量が多そうだから」

「だから」


「堅苦しいからアリスでいいわよ。それで魔法量ってわかるの?」

「あぁ、多分普通の精霊なら100人ぐらいまで余裕だと思うぜ」

「思うぜ」

 うわぁ、まさかのチート能力がこんな処で発覚するなんて。


「そう言う事ならさっさと済ませましょ。ロベリアいいわよね? このまま二人を野放しにすれば、あなたの生き血をすするって言ってるから、止めるために私が契約をするわ」

「「言ってないから!」」

 相変わらず息ピッタリね、ロベリアも怯えながら頷いているから大丈夫よね。後で文句を言われるのはゴメンだ。


「さてそれじゃ始めましょうか。」

 二人の前に立ち契約の理を紡ぐ。


「精霊の王の下、我と汝の契約を望む者なり、

互いの意思の下、共に歩み、共に学ぶ事をここに願う、

互いの想いの下、共に助け、共に支えあう事をここに誓う、

契約を望む者、我が名はアリス、

契約を求む者、汝の名は……」

黄金に輝く魔法陣が私たち三人を囲み光が溢れんばかりに広がる。

その時、私の頭に二人の名前が浮かんだ。


「スイ」

「おう」

「エン」

「おうよ」

 一瞬光が頂点まで達しその後すぐに収まった。


「これで契約完了ね。よろしく、スイ、エン」

 この日私は新な家族を迎えた。

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