第13話 食材の発注
開店二日目。
あれから昨日、エレンとエリスが余ったケーキを食べる食べる。
余りに食べすぎるので耳元で『太るよ』っと囁いたら泣きながら私に抗議をしてきた、『ケーキが悪いんです!』って。
いやケーキは悪く無いからね!
「さぁ開店二日目です、今日も頑張りましょう」
「お、お嬢様! お店の前が凄い事になってます!」
調理場で仕込みを終え、一通りの準備を終えたところでエレンが駆け込んできた。
「どうしたの?」
「人が大勢集まっているんです!」
「へ?」
思わず淑女らしからぬ変な言葉が出ちゃいました。大勢集まっているってどう言う事?
「お嬢様、どうやら昨日の試食が効いたようでございます」
「どういうことなの?」
慌てるエレンと違いグレイが冷静にお店の外を確認して来てくれたそうだ。
「昨日試食された方々の話を聞かれたようで、朝早くからご購入の意思で並ばれているそうです」
購入の意思って、そこまで確認してくれるなんて我が家の執事はなんと優秀なことでしょう。
「ありがとう助かったわ、オープンまでもう少し時間はあるわね」
店舗内に掛けてある振り子時計を見て時間を確認する。(この世界にも時計があって助かるわ)
「みんな聞いて、午前中は外での試食は辞めるわ。エレンとエリスは最初からレジ対応と商品の受け渡しをお願い。グレイは接客と試食を店の中で、リリーはその補助について。あと試食は一人一個までと伝えて頂戴。
今日は売れ行きを把握したいから商品の減り具合を出来るだけ細かく伝えて、私とディオンは減り具合に対応して商品を補充していくわ。スイとエンは予定通り最初は調理場の補助、質問は?」
皆んなを見渡しそれぞれが頷いてくれるのを確認する。
「それじゃお店を開けるわよ」
『はい、お嬢様』
「はい、お姉さま」
『おう(よ)』
「はい、ママ」
カランカラン
『スイーツショップ ローズマリーへようこそ』
「お嬢様モンブランが半分を切りました。フルーツケーキは残り僅か、シュークリーム無くなりました」
「シュークリーム出来たわ、エリス持って行って」
「お嬢様スポンジ焼きあがりました」
「分かったわ。スイ、エン地下の倉庫から蜜漬けの果物を持ってきて」
「お嬢様、フルーツロールも半分を切りました。」
今のところよく動く商品はフルーツ系のケーキ、丁度季節が秋のため果物が豊富で助かった。
この世界には当然ハウス栽培なんてものは無く、保存の効かない野菜や果物はその季節の物ばかりしかない。そのため定番中の定番であるイチゴのショートケーキは現在店頭に出ていない。
「ちわーっす。注文の品をお届けに来ましたって、うわっ!」
「ごめんセネジオ、材料はそこの机の上に置いておいて。あと悪いんだけど昼過ぎにもう一度来てくれるかしら、今は手が離せないの」
セネジオが注文していた食材を裏口から持ってきてくれたんだけど、今調理場はとんでもないことになっているからね。この現状を見てさぞ驚いた事だろう。
「わ、わかりました。また後で伺いますので、その……頑張って下さい」
「ごめんねー」
ホントは今後のお付き合いの為にお茶でも出してあげたい処なんだけど、正直今はそんな余裕がないからね。悪いとは思ったんだけど注文したい食材もあるからもう一度来てもらうことにした。
ようやくお客様の嵐が過ぎ去り午後を少しまわった頃で、約束通りセネジオが訪ねて来てくれた。
「ごめんねセネジオ、何度も来てもらっちゃって」
「いえ、お嬢様。それにしても大変な場面に来ちゃって申し訳ございません」
店の奥にセネジオを案内してお茶とケーキを出した。
「それで食材の注文なんだけど、思った以上に品物の動きが早くて当初入れた材料じゃ足りなくなってきたのよ。取り敢えずこれだけは明日中に届けてくれないかしら」
そう言って注文する材料を書いたメモを渡した。
「これって先日結構な量を入れられた材料ですよね、もう無くなったんですか? それにこの追加分の量多くないですか?」
セネジオには基本毎日食材を届けてもらうことになっているが、その内容は主に長期保存の効かない卵や牛乳あと果物類が多い。
だけど今渡したメモには保存が利く材料が書かれている、開店前に一週間分を見越して仕入れていたのだけど思いの外消費が激しかったのだ。
「ごめんね。結構な荷物になると思うんだけど、開店からしばらくは十分に賄えると思っていたけど予想外にお客様が来てくれてね、今の在庫量ではあと二日程度しか持ちそうにないのよ」
保存の利く小麦粉や塩それに砂糖類は、一度に沢山の量を仕入れるからどうしても重くなる。その上今頼んだ量は前回注文した分の約5倍。
セネジオが所属する商会は、個人向けにも商売をしているから荷馬車で契約している店や屋敷を順番に配達しているのだ。その関係で本来一度に大量注文すると馬車に乗り切らず困らせてしまう事になる。
「分かりましたお嬢様、明日必ずお持ちします」
「お願いね。取り敢えず二週間分の予定だけど次からは少なくなったら早めに注文するわ」
「この量で二週間分ですか、先ほども驚きましたがすごい人気ですね」
他のお店で使用する量までは分からないけれど、おそらく小麦粉を一番多く使うであろうベーカリーショップの約一ヶ月分の量はあると思う。私って結構小心者だから、材料とか余裕がないと心配で夜も眠れなくなるのよね。
「おかげさまでね、でも今はまだ準備段階だからこれから忙しくなるわよ」
「まったくお嬢様は凄いですね。俺が今まで見てきた貴族のご令嬢様って、みんな着飾ったり無意味に威張り散らしたりしてるだけでしたよ?」
「アリスお嬢様が異常なだけですよ」
エレンがお茶のおかわりを持ってきて言った一言がこれだ。酷くない?
「何で私が異常なのよぉ」
ほっぺを膨らませてエレンに抗議するも。
「普通のお嬢様は調理場になんて立たれませんよ」
「それに三角巾を頭に被り鼻歌を歌いながら掃除もしませんな」
さらにグレイまでも追い打ちを掛けてくる始末。
もう、まだこの間の掃除の姿を根に持ってるんだから。コラ!スイ、エン笑うな。
「そう言えばあのお屋敷にもまだ配達しているのよね?」
一通りの商談を終え、ふとこの間まで暮らしていた屋敷の事を思い出した。
「ええ、まぁ……」
「どうしたの? 何かあった?」
セネジオが何か言いにくそうにしている。
私たちが屋敷をでてまだ10日程、何あったんだろうか?
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