第15話 とある夫人のケーキ話

 開店二日目が終了した。


 今日は午前中にお客様が集中していた為か、午後からは少しゆったりとした時間が過ぎた気がする。あくまで気がするだけだ、午前中に比べてだが。

 だって考えるだけで疲れるんだもん。


「それにしても忙しかったですね今日も」

 言っちゃったよ! 考えないようにしていたのに。


 私的に働くのは決して嫌いではない、むしろ体を動かしたいぐらいだ。

 だけど生まれて16年間これでもいちお良家のお嬢様だったのだ。何をするにも「お嬢様私がしますから」「お嬢様がそのような事をなさっては行けません」って優秀な使用人さん達に甘やかされてきたんだよ! そのため私の体は細く繊細で美しい……コホン、とにかく長時間労働に耐えれる体力がないのよ。


 今更ながらディオンが来てくれてよかったと思うわ、私一人なら今頃どうなっていたか。


「ごめんねディオン人一倍働かせちゃって。でも今はまだ人を増やす事が出来ないからもう少し我慢してちょうだい」

「いえ、お気遣いなく。このぐらいでしたら以前レンストランを経営してた時に比べてまだ軽い方ですよ」

 レストランの場合は注文が入ってから料理を作るからね、ピーク時の忙しさに比べては多少楽なのかもしれない。人によって違うんだろうけど。


 それに今の忙しさは一時的なもの、どこのお店でもオープン当初は物珍しさに忙しいとい言うもの。逆にオープンから人が少ないと早い段階で対策を打った方がいいだろう。


 うちの店の場合、庶民には馴染みがない商品だったため人集めの対策を兼ねて、オープン当初から赤字覚悟で試食用ケーキを大量にバラまいた。

 おかげで二日目でさっそく効果が出てきたって感じだ。




「今日の売り上げは中々いい感じね」

 グレイが集計してくれた台帳を受け取り私は答えた。


 うん、考えないようにしてたけどやっぱり昨日に比べて午前も午後も売り上げ伸びてるや。どうりで疲れるわけだ。


 昨日に比べて試食用の量が減ってきている。午前の忙しさに対応できなかったって事もあるけれど、午後からも試食用には目もくれず店内に買いに入られるお客様が大勢来られたのだ。

 試食用はあくまでシンプルな上一口サイズだからね、華やかで甘いものはいっぱい食べたいってのが本音だろう。



「そう言えばお嬢様、お昼過ぎに来られた客様は何をしに来られていたのですか?」

 ディオンが作ってくれたお料理を皆んなで囲んで食べてると、エレンが午後に来られたお客様の事を訪ねてきた。


「あぁ、そうだったわね。来週クリスタータ男爵家で、ご息女の誕生日パーティーを開かれるそうなんだけど、その時に出されるケーキの注文をいただいたのよ」

 お使いの方が帰られた後、急に忙しくなったので皆んなに言うのを忘れていたわ。


「これは事前にご注文をいただいてるからね、食材や時間的な問題も準備さえしておけば大丈夫よ。むしろ貴族様からのご注文だからお店の評判もにもなるしね」

 とにかく予約注文は事前に分量もわかっているし、作業時間も読みやすいからいろいろ都合がいいのだ。

 おまけに配達用の馬車が無い事に気づけば、わざわざ取りに来てくださるという。思わず心の中で淑女らしからぬガッツポーズしたのは許してほしい。誘導したわけじゃ無いよ!


「オープン二日目で貴族様からのご注文が入るなんてすごいですね」

 普通どこのお屋敷でも料理人を雇っておられるので、デザートや今回のような誕生日ケーキはお抱えの料理人が作るのが一般的なのだ。その為よほどの有名店やどこか地方のお土産を除き、他のお店に注文する事はかなり少ない。

 逆に注文が入るという事はそれだけそのお店は認められたという事になる。


「実はね、以前ルテアのお屋敷に伺った時ケーキの完成版をお土産に持って行った事があるのよ。どうやらそのケーキをルテアのお母さんが気に入ってくださってパーティーで話されてたそうなの」


「公爵婦人がですか? それってかなりすごい事じゃないんですか?」

 流石エレン、私が言っている本当の意味を理解してくれたようだ。

 貴族のご婦人方って噂話が大好きな上、基本ものすごく暇なのだ。

 いや訂正しようご婦人方は日々のお茶会いに忙しい、各お屋敷の情報収集も立派な仕事だ。ただ内容の大半が他人の恋バナを占めているのは同じ女子としては仕方がないと思う。


 そしてこの場合、一番重要なのが話をバラまいてくださったのが公爵婦人と言うこと。この国の女性の中で王妃様に次ぐナンバー2と言っても言い方の話ですよ! 流行にめざといご婦人たちが反応しないわけがないじゃないですか。


 今までお店が無かったので買いたくても買えなかったのが、お店が出来たと話が広まればケーキがバカ売れ……コホン、ご注文が増えるってもんです。

 さらに貴族様は特別扱いや特別対応なんかされるのが大好きですからね、事前にアレヤコレヤと指示してご予約してくださる方が多いから、確実な売り上げが確保できるってもんです。お金払いもいいしね。


 これは貴族様用の特別商品を考えていいかもしれないわね。

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