第21話 お買物
「ねぇねぇ、これなんかエレンに似合わない?」
「お姉さま、こっちの方も良くないですか?」
商店街エリアを歩いていると店頭にディスプレイされた可愛い服を見かけ、三人で店内に押し掛けた。
始めはエリスの服を見ていたのだけど、たまたまエレンに似合いそうな服をみつけ、いつの間にか私とエリスでエレンの洋服探しに変わっていた。
「アリス様、エリス様、私のお洋服は必要ありませんのでお二人のお洋服をお探しください」
エレンは私とエリスが一緒にいるときは、私のことをアリスと呼ぶ(ただし冷静な時だけね)。呼び方がお嬢様だったらどっちがどっちで分からないしね。
「エレンがローズマリーの制服とメイド服以外の服を着ているところなんて、見たことがないわよ。せっかく元が可愛いんだからもっと可愛い服を着なくちゃ」
屋敷にいた頃のメイド服は黒を基調にした長いスカートのワンピースに、清潔さを出した白いエプロンとカチューシャ。
使用人の制服とはいえ伯爵家が用意した制服だから、滑らかな肌触りにスカートの部分が大きく広がるようふんだんに使用された生地、襟首は取り外し可能だからお洗濯にも便利! さらに夏用と冬用の二種類あり、エプロンとカチューシャを外せばそのまま街に出れるすぐれもの。いまエレンが着ている服がまさしくそれだ。
一方ローズマリーの制服は、私の前世の記憶を元に白と水色を基調にしたひざ上までの可愛いワンピースに、白いフリルの付いた可愛いエプロン。
参考までに全て私の手作りだったりするが、趣味がかなり入っているのは見逃して欲しい。
この世界あまり女性は膝上までのスカートは履かないのだけど、嫌がるエレンに可愛いからと無理やり着せた(エリスは喜んでいたけど)。
今ではお店に来る女性客にも可愛いと大人気で最近で、本人も
これでも前世では友人に内緒でよくコスプレイベントに出かけたもんだ(もちろん全て手作り)。可愛い子には着飾りたくなるのがコスプレ魂と言うもの、これ世の中の常識! おっと、よだれよだれ。
嫌がるエレンに私とエリスが見立てた服を二着プレゼントし、他にもいろいろ回っていると時間が経つのも早く、そろそろお昼でも食べようかと話し合っていた時、細い路地の奥から子猫の鳴き声と子供立ちの声が聞こえてきた。
「何かあったのかしら?」
私が気になったので路地へと入ろうとしたらエレンが止めてきた。
「いけませんアリス様、いくら王都とはいえ路地裏は危険すぎます」
私も詳しくは知らないけれど、路地裏には人様に言えない裏のお仕事をされている人がいると聞いたことがある。場所によっては縄張りと言うものがあり運が悪ければ怪我だけではすまないことも……。
「そうね、ごめんなさい。浅はかだったわ」
いくら魔法が使えるといってもこの体は所詮はイイトコ育ちのか弱い存在(私のことよ!)、掴みかかられてはなすすべがないからね。
そんな時、路地奥からみゃーみゃーと可愛い子猫の鳴き声が聞こえてきた。
「お姉さま子猫が泣いる」
「ダメよエリス。私たちだけではこの先は危険よ」
かわいそうだけどエリスやエレンを危険な目に合わすわけにはいけない。私は
「お姉さまなんて大嫌い!」
なんて言って路地裏に消えていった。
「お、お嬢様。エリス様が!」
「う、」
「う?」
「うわぁぁぁぁん!! エリスにきらわれたよぉぉぉ、もう生きていけないよぉぉ」
生まれて初めてエリスに拒絶された私はその場に泣き崩れたのでした。
************
お屋敷を出てからお姉さまは毎日夜遅くまでお仕事をされている。
昼間は私もお手伝いをしているけれど、夕方からは家に家庭教師の先生を招いてリリーと一緒にお勉強の時間。
私はいいって断ったのに来年から初等部の一年に入学することになっているから、それまでに基礎知識を学んでおきなさいって無理やり先生を連れてきたんだもん。お姉さまは私に過保護すぎるんです。
そんなある日、一階からドンッと大きな音がしたかと思うと白い煙が二階まで上がってきた。
なんでも石窯が爆発しちゃったらしく修理のため今日はお店をお休みにするんだそうです。
お姉さまはずっとお忙しそうにされていたので最近は全然遊んでもらえなかった、だからお休みと聞いて私は喜んだ。
でもなんで石窯が爆発するんだろう? お姉さまのことだからまた魔法の使い方を間違えたのかな?
突然決まった街でのお買い物、私は今までほとんどお屋敷から出た事がなかったから、見るもの見るものすべてが新鮮だった。
最初に立ち寄ったお店でエレンに洋服をプレゼントしたり、お姉さまの髪飾りを見たり私のお洋服も買ってもらった。
三人でそろそろお昼でも食べようかと話していた時、細い路地裏から子猫の鳴き声が聞こえてきた。
お姉さまが路地裏に入ろうとした時エレンが止めたけど、わたしはきっと子猫を助けてくれると思った。だけど出てきた答えは私が考えていたのとは真逆だった。
私にとってお姉さまはいつも完璧だった、優しく勉強もでき礼儀作法も美しい、精霊だって三人も契約している。おまけに超がつくほど可愛いです。
貴族のお友達の間では男の子からは憧れ、女の子からは羨ましがられる私の自慢のお姉さま。
そんなお姉さまが子猫を助けてくれない。私は悲しくなって思わず……。
「お姉さまなんて大嫌い!」
そう言って路地裏に掛けて行った。
でもきっとお姉さまなら後から追いかけてきてくれる、そう思ってさらに奥へと子猫の鳴き声の方と走って行った。
まさかお姉さまが私の言葉にショックを受け、泣き崩れているなんて知る由もなく。
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