第19話 誕生日ケーキ

 新しくパティシエとして迎えたエリクを加え、今日は先日ご予約を頂いたクリスタータ男爵様のご令嬢、イリア様(10歳)の誕生日ケーキを朝から総出で作っています。


 注文内容は以下のとおり。

・イリア様のメインケーキ(形サイズ全てお任せ。)

・来客用ケーキ(立食型パーティー)約80人分

※予備として20人分を別に

(来客用もデザイン、トッピング共にお任せ。できればいろんな種類を用意)


「ディオン、スポンジが焼きあがったらフルーツケーキとホワイトスノー、それとシャルロット仕上げをお願い」

「分かりました」


「エリク、その生地にチョコを3対7の割合で混ぜて。エレン果物の蜜漬けを出してきて」

「「分かりました」」


「グレイ出来上がった物からトレイに乗せて納品準備を。スイ、エン、メインケーキに取り掛かるわ手伝って」

「はい、お嬢様」

「「おう(よ)」」


 エリクが来てくれたおかげでかなり効率が上がったわね。

 さすがディオンの息子、いや失礼か。さすがパティシエ志望と言うところか。

 とにかく思った以上に優秀なのだ。ある程度の指示で理解してもらえるのがとても助かる、ただ作り方が素直すぎて臨機応変に対応出来ないのが少々不安でもあるが、まぁこれはおいおい理解して貰えば問題ないだろう。そこ、雑とか言うな!


 私は皆んなに指示しながら最後のメインケーキの作業に取り掛かる。


 ちなみにリリーとエリスはまだお休み中、今日は朝が早かったからね。

 部屋を出るとき二人で仲良く寝ていてね、その姿なんてねもう、ギュってしたいほど可愛いんだから! 起きちゃうからしないけど。

 えっ、起きてたらしてるのかって? そんなのするに決まってるじゃない。


 さて、メインのケーキは二段式。丸いホールケーキ中央部分を少し小さめに丸くくり抜き、くり抜いた中央部分に台となるチョコチップを散りばめたソフトクッキーを埋め込む。

 次に全体を生クリームでコーティングし中央部分に先ほど切り抜いたスポンジを乗せ、さらにコーティングする。

 これで二段ケーキの土台が完成した。


 この後はホイップクリームと蜜漬けのチェリーをメインにデコっていき、色のアクセントとしてキウイフルーツとブルーベリーそして桃を差し込んで行く。


 そして最後にチョコのプレートで『Happy Birthday Ilyaハッピーバースデー イリア』の文字。

 ま、こんなところかしら。


 最後に出来具合を確かめて完成。ディオンとエリクの方も丁度できあがったみたい。



「これで一通り完成ね、本当ならイチゴがほしいところなんだけど」

「イチゴですか?」

 私の独り言にエレンがご丁寧に反応してくれる。


「ええ、ケーキと言えば本来イチゴがメインだからね。抜群に相性がいいのよ」

「イチゴは春過ぎでないと出回りませんからね」

「そうなのよ、ハウス栽培なんかあれば別なんだけど」

「ハウス栽培? 何ですかそれ?」

 おっといけない、ついつい余計なところまで喋ってしまったわ。前世の記憶のことは流石に話せないからね。

 エレンの事だからきっと頭がおかしくなったとか騒ぎ出して、無理やり医師に見せられる決まってるわ。



「それにしても父さん、お嬢様って一体何者なんですか? 聞いたことのない知識にあの手際、それに的確すぎる指示ってどう考えても素人には思えないんですが」

 少し離れた所でエリクがディオンに話しかけている、でも私って耳はいいのよね。全部筒抜けよ。


「エリク聞こえてるわよ」

「あっ、も、申し訳ございません」

「私がいくら美人だからといって見惚れてないで。私から技術を盗みなさい」

「は、はい!」

 あぅ、普通に答えちゃったよ! エレンならすかさず「なんでやねん」バシッっとツッコミが入るのよ!


「……」

この沈黙きついわね。


「えっと、そこは是非ツッコんで欲しい所なんだけど、真面目に答えられるとすごく恥ずかしいわね」

「はぁ……お嬢様、お屋敷を出られてから少々ご令嬢としての自覚が足りなくなって来てはいるのではございませんか? このままではノエルさんからお嬢様の事を託された私の立場がございません。これからはビシバシ、ツッコミ……コホン、注意させていただきますから」

 うわぁ、エレンの変な地雷を踏んじゃったよ。せっかく堅苦しい貴族の地位を脱ぎ捨てられたっていうのに、もう少し自由にさせてくれてもいいじゃない! とは口がさけてもエレンの前では言えないわね。



「さて、そろそろ今日の販売分の作業に入るわよ。エレン、エリスとリリーを起こしてきて、あと二人の朝食もお願いね」

 エレンにエリス達の事をお願いして私たちは今日の販売分の作業に入った。


 今日予約注文分にチョコケーキを初めて導入したがそれは砂糖を使っての事、この辺りは前世と同じレシピを使えば問題ないのだけど、通常の販売分には果実糖かみとうを使わないといけないからね。まだとても販売できるレベルまで完成していないのよ。



 開店準備も順調に終わり徐々に店前に行列が出来始めた頃、執事のバイアンさんが馬車に乗ってご来店。そして無事納品完了。

 一緒に来られていたこの間のメイドさんが、ケーキの完成品を見てエレンと一緒にキャーキャーと興奮されていたのはご愛顧というもの、同じ女性としてその気持ちわかるよ。でも太るの!


 ちなみに馬車に乗せる際カバーを付けているとはいえ、透明なガラスケースから覗くケーキの姿に、並ばれていたお客様(特に女性陣)から黄色い悲鳴が響きわたり、大通りから大勢集まってきたのは致しかたあるまい。

 見なかったことにしよう、今日もいい天気ね。

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