第53話 策略が張り巡る社交界 後編

「ほぉ、では最近出回っている新種のハーブティーはアリス様が考案されたのですか?」

「えぇ、ケーキの試作を作る中でオリジナルの茶葉も試案していたのです」

 話の過程で私がローズマリーを立ち上げた話に行きつき、それを聞きつけた貴族の方々が話を聞こうと群がってきた。


「アリス様、もしよろしければこの後ゆっくりお話しをしたいのですが」

「ウィリアム殿、抜け駆けは卑怯ですぞ。アリス様、私が経営しております商店があるのですが、こちらにもそのハーブティーの取り扱いを是非」

「皆様ありがとうございます。ですが今日はインシグネ家主催のパーティーですので、取引の件は後日と言う事でいかがでしょうか?」

 儲け話の事となれば貴族とて黙ってはいられないのだろう、今のローズマリーは王都でも知名度は抜群だ。そこの商材が扱えるとなれば、それだけで売り上げが見込める。オリジナルのハーブティーは元より販売シェア広げるつもりだったので、この取引はローズマリー商会としても願ったり叶ったりと言ったところだ。


「経営は順調のようだな」

「いえいえ、まだまだですよ。叔父様」

 私が貴族の方々と話をしていると、ようやく叔父が話しかけてきた。


「しかし先ほどから聞いていたが、まるで爵位を継いだような気でいるのではないか? 父上から提示された条件は一年後に決まるはずだったが」

「そうよ、皆様に誤解を招くような言い方は慎んだ方がいいわ。今すぐ謝罪なさい」

 叔父と叔母が私の周りに集まった方々にワザと聞こえるよう話しかけてくる。


「ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。叔父様、叔母様。

 私としてはその様なつもりで言った事は無いのですが、誤解を招くような言い方をしたのなら謝罪いたします。ですがお爺様がご提示されたのは『この一年で如何に領地の為に尽くせるか』という内容だったはず。失礼ですが叔父様達は、いえライナスやロベリアは何か成果を残しているので? 少なくとも私はすでに行動を起こし成果が出始めております」

 公然の場でお爺様が提示した条件を聞いてもらう。その上で現在どちらが有利かを周りに判断させるのだ。

 お爺様からの告知がある前からすでに行動に移していたから、フライングと言えばそうなるが、叔父にはどこから新たに思案したかまでは分かるはずもないだろう。


「当然だ、すでにクロノス商会では新しい事業の準備をしておる」

「クロノス商会? あぁ、私のが立ち上げた商会ですね。あの商会は現在叔父様が管理されているのですか?」

 叔父が唯一私と張り合える武器、それはクロノス商会を置いて他にはない。

 だけどそんな事はさせない、この場でクロノス商会が如何に叔父の経歴ではない事を集まった方達に聞いてもらう。


「無論だ、全て私の管理の元で運営されておる」

「そうなんですか!? 代表が入れ替わったり、生産農家の方達からも最近あまり良い話を聞いていなかったので心配していたのです」

「商会の運営は順調だ、利益も多くあげておるわ。どこでどんな噂を聞いたか知らないが、誤解を招くような言い方はやめてもらおう」


「いいえ、噂ではございませんわ。叔父様はラクディア商会の事はご存知ですよね? 現在アテーゼ領で一番の出荷量を誇る大商会です」

 ラクディアと言う名を聞いて知らないとは言わせない。


「兄の名を語っている商会か、それがどうした? お前には関係があるまい。それにアテーゼ領で一番の大商会はクロノス商会の方だ」

 表立って干渉はしていなかったが、まさか本気で気づいていなかったとは。

 まぁ、もっとも叔父に隠れて輸送ルートを確保したり、生産農家に直接クロノス商会に買い取ってもらえない余剰在庫を他領に流したりと。叔父には分からないよう勧めていたが、ここまで見事に気にもされていなかったとは正直呆れてしまう。 アンテーゼ領内でクロノス商会はすでに以前の規模を保てていないのだ。


「ふふふ、以前叔父様は私にこう言いましたよね『私は知らなさすぎる事が多すぎる』と、そのお言葉そっくりかえさせて頂きますわ」

「何?」

「ラクディア商会は、私の父と一緒にクロノス商会を立ち上げた方が経営されております。そして私のローズマリー商会とは姉妹関係、名前を聞いてお気づきになりませんでしたか? それに領内での出荷量と売り上げは、とうの前にクロノス商会を上回っております。叔父様はただ王都での数字しか見ていないようですね。そんな事では商会を管理しているとはとても言えないのではありませんか?」

 二つの商会はラクディアお父様とマリーお母様の名前から由来ている。たしかにこの二つの名前はある種の偶然かもしれない。だけどそれぞれの想いがあって付けられた名前だ、叔父たちにこの名前の重みは分かるまい。


「ふん、出荷量も売り上も一時的なものだろう、別に大騒ぎするような事柄ではない。今私が進めている事業が成功すれば、すぐにでもクロノス商会が追い越すだろう」

「あら、そうなのですか? ですが、私と爵位の継承権で争っているのはライナスとロベリアですよ? 叔父様の経営はこの度の継承問題には関係が無いのではございませんか?」

 そう、いくら叔父が何かを考えたとしても私と比較されるのは二人の子供なのだ。


「何を言っているよ貴方は。夫が行った政策はそのまま子供達に反映されるに決まってるじゃないの」

「勘違いなさっているのは叔母様の方ですわ。この度の査定の意味を全く分かっていらっしゃらないようですね。これはいずれ爵位を継ぐ者に、その能力があるかどうかを判断するもの。いつまでも親に頼っているようであれば、あの二人は私の相手にすらならないわ」


「ま、まぁなんて言い方なの! そもそも二人はまだ学生の身よ、爵位を継ぐにしろまだ早いわ。だからそれまでは夫が後見人として管理しようとしているんじゃない」

「全く、お気楽な考えですね。私達はまもなく18歳になります。

 18歳と言えばもう立派な大人、私の周りでもすでに結婚をしている者もおりますし、お爺様は同じ歳で爵位を継いだとお聞きしております。もう甘やかす歳ではないのですよ。いい加減子離れされた方がよろしいのでは?」

 こうもバカげた話を堂々と言えるものだ。今さら後見人だとかに何の意味がある、これは爵位を決めるための試験なのだ。


「なんて失礼な子なの! 両親を亡くした後を養ってあげていたと言うのに」

「勘違いなさらないでください、あのお屋敷は伯爵家の持ち物です。元々は私の父が受け継ぎ、亡くなった後は私からお爺様に所有権が移っております。

 叔母様達は今現在もお住みのようですが、いったい誰の許可を取って住んでいらっしゃるのでしょうか? あまり言いたくはないのですが、私としては叔父様達が爵位を継いだような誤解をされてしまうので、早々に立ち去って頂きたいのですが」


「まぁ、聞きました? 恩を仇で返すような言い方。全く、一度は爵位を放棄したって言うのに図々しいわね」

「叔母様、恩と言う意味をご存じないようなのでお教えしますが、恩とは他の人から恵みを与えると言う意味ですよ? 叔母様はお屋敷にいる間、私に何をかしてくださいましたか? 叔母様がしたことは母の持ち物を無断で売りさばき、私の信用出来る使用人たちを次々辞めさせ、素人のメイドと入れ替えただけではありませんか。

 もし私に恩を売るような事があったのであれば教えて頂きたいぐらいです。

 

 それに爵位を放棄した件はすでに陛下から直々にお叱りを受け、謝罪まで済ませております。

 今では自分の過ちを反省し、領民の為に尽くそうと日々努力しているのですよ? それでも私の事を図々しいとおっしゃのであれば、直接陛下へお話しください。何でしたら私が陛下に直接お話ししておきましょうか? 幸いにも今度、王女様達からお城へ招待されておりますので」

 私の言い分に叔母は完全に黙り込んでしまった。

 別に嘘は言っていない。今度王女様達から(いつの間にか決まっていた)お泊まり会に誘われているのは本当の事だ。あんまり行きたくないけど。


 叔母は周りの人たちから同情を誘いたかったのだろうが、沈黙してしまった事ですべてを認めた事になる。これで逆に私が置かれていた環境に同情してくれる人もいるだろう。

 また以前叔父が主催したパーティーに参加した人もこの中にいるはずだ。

 前に聞いた事があるが、叔父が主催のパーティーはただ華やかなだけで、使用人の質が悪すぎて噂になっていると。その原因を今暴露したことで結び付けてくれるのではないだろうか。

 ご婦人の噂話はどこの世界でも恐怖の対象なのだ。


 そして止めが陛下の存在。流石の叔母も陛下の名前を出されては反論も出来まい。

 私達が謁見の際に話していた事は叔母も近くで見ているのだ。その上王妃様達と親しく話している事も当然知っている。

 つまり私の言葉はハッタリではないと思ってくれるはずだ。

 これで叔母の言い分は全て断ち切った。


「全く、相変わらず口だけは達者だな。もう爵位を継いだ気でいるようだが所詮は女の身。家系を守るならば男児が爵位を継いだ方が良いに決まっておるだろうが。

それにお隣にいらっしゃるお方はたしか公爵家の嫡子だったと記憶しているが、間違いないかな?」

「えぇ、そうですわ」

「初めましてカーレル殿、ジーク・ハルジオンです」


「見た感じ二人は付き合っているように見えるが、もしこのまま公爵家に嫁ぐのであれば伯爵家はどうするのだ? まさか公爵家に持っていくのではあるまいな。」

 ん〜、別にまだお付き合いしている訳ではないのだけど、ここで否定したらいろいろ面倒なので取り敢えずそのまま話を続ける。


「私とジーク様がこの先どうなるかは分かりません。ですが、すでにお爺様の許可も取っております。私が爵位を継承することになれば私の好きなようにしてよいと。その中には伯爵家を他家の中に取り込む事も含まれております。」

 先日お爺様達が王都でお泊り頂いた際、私はもしもの過程をお話しした。あの時はまだ爵位を継ぐかどうかを迷っていた私にお爺様はこう言ったのだ。

『もし自分が女性だから爵位が継げないと迷っているのなら、それは只の甘えである。己に言い訳をし、逃げているだけでは先に進めない。まず一番に考えるべき事は何なのかをもう一度見詰め直してみろ』と。


「バカな、父上がそのような事をお認めになるはずがない」

「信じられないようであれば直接お確かめください。あ、そうそうアンテーゼ領に向かわれるのであれば道中には注意してくださいね。実は先日、私が乗って行った馬車が落石事故に遭遇しまして、危うく命を落としてしまうところだったんですよ」

 私はワザとらしく落石事故の事を説明する。

 周りでは急にザワザワと話し声が聞こえるが、叔父の反応はわずかに眉が動いた程度。このぐらいではまだ判断がつきにくい。


「ほぉ、それは災難だったな。しかしよく無事だったものだ」

「えぇ、幸いにも帰りはお爺様がご用意してくださった馬車に乗りましたので回避できたのですわ。ただ今後の事もありますので調をしてもらっているんです」

 こちらが囮の馬車を使った事は伏せおく。

 もう少しだけ、偶然に助かった事にしておかなければ警戒されてしまう恐れがあのるだ。


「たかが落石事故程度で調査をする必要もないだろう。無駄な警備兵を使うなら領地警護に回すのが領主の務めではないのか」

「あら、なぜ私がアンテーゼ領内で事故にあったと思われたのですか?」

 私の一言で今度こそ叔父は明らかに反応した。


「確かに事故現場はアンテーゼ領内でしたが、私は一度たりとも領内で事故にあったとは言っておりませんよ? 叔父様は何故、領地の警備兵を使っているとおっしゃったのでしょうか?」


「そんなつもりで言ったのではない。お前がアンテーゼ領に行くと以前言っていたからそう思っただけだ。しかしまだ爵位を継いでいない立場で、自身が事故に巻き込まれそうになったと言う理由だけで、無駄な調査に領民を守る警備兵を使うのは問題ではないか?」

「ご忠告ありがとうございます。ですがご心配には及びません。調査をして下さっているのは王国騎士団でございますから」


「な、何故王国騎士団がアンテーゼ家が管理している領地の調査をしているのだ。まさか王家の介入を父上が認めるわけがあるまい」

 王国騎士団が調査するのは王都や王家が管理する領地の事件みである。それ以外はそれぞれの領主の元で調査され、事件の解決から罰則まで領内で行われる。

 もし領主管理の地に王国騎士団の調査が入ると、周りからは無能や悪政、最悪謀反の疑いありと思われてしまう可能性があるのだ。


「この件はお爺様も了承されていますわ」

「ふざけるな、お前は事の重要性を分かっていないから呑気にしておるのだ。たかが落石事故程度で王国騎士団を介入させおって」


「はぁ……事の重要性を分かっていないのは叔父様の方ですわ。事故にあった馬車は王家所有のものです。つまりは王族の方を狙ったの可能性がるのですよ? 叔父様は王族の方々に何かあったら責任を持てるのですか?」

「お、王家の馬車だと!? なぜそんなものにお前が乗っているのだ」

「いけませんか? 先日王妃様主催のお茶会に呼ばれた際にアンテーゼ領に行くお話ししたら、陛下が喜んでお貸しくださったんですよ。そのお陰で私は助かったのですから感謝しきれないぐらいです。

 それとも叔父様は、王国騎士団が調査をすると不味い事でもあるのでしょうか?」


「ば、勘違いをするな、誰もそんな事は言っておらんだろう。王国騎士団を介入させてしまった事に驚いただけだ」

 まったく面白いように同様してくれる、隣にいるジーク様からも一瞬緊張感のような気配を感じた。恐らくこれで決定だろう、叔父は今回の件関わっている。


「そうでしたか、ただ馬車が落石にあった場所は私の両親が亡くなった場所の近くなんですよ。

 同じような場所で立て続けに、しかも同じ家族が事故に遭うなんて偶然すぎるとは思いませんか?」

 今の私の表情は、余裕を見せる中で視線だけが笑っていないだろう。


「……何が言いたい?」

「両親の件も、今回の件も事故ではなく事件だと言っているんですよ」


「ふん、何を根拠にそのような出まかせを」

「さぁ、それはどうでしょうか。王国騎士団が何の根拠も無しに調査をしているとは私には思えませんが?

 ただこれだけはお伝えしておかなければなりません。もしこの先私に何かあれば真っ先に疑われるのは叔父様ですよ? 私はすでに一度殺されかけておりますし、間違いなく今一番爵位に近いのは私自身です。そんな私が死んでしまえば誰もが叔父様を疑うのではありませんか?」


「面白い話だな。だがお前には妹もいるし、姉上にも息子がいると言っておったではないか。もしお前の命を狙っている者がいたとして、妹はどうかしらんが姉上の息子が怪しいとは思わんのか?」

 この瞬間私はこの勝負に勝利した事を確信した。


「ルーカス」

 私の呼び声と共に人混みの中から出てきたのは当の本人。

 叔父もまさかこの場にルーカスがいるとは思っていなかっただろう、驚きの表情がとってみ見える。


「初めてお目にかかります。フィオレの息子、ルーカスと申します」

「ほぉ、まさかこのパーティーにいるとは思わなかったぞ」

かもしれませんが、ルーカスには私の店を手伝ってもらっているんですよ。」


「しかしパーティーに出席しているのならなぜ初めから挨拶にこない。叔父の私に対して失礼ではないかね?」

「叔父様、ルーカスはもう貴族ではありませんよ? 今日は私の付き人をお願いしているにすぎません」


「何? どういう意味だ」

 叔父の問いにルーカスが答えてくれる。


「私は今ままで一市民として育ってきました、今更爵位があると言われても戸惑うばかりです。ですから先日アリス様からお話しを伺った際に継承権を破棄させて頂きました」

 ルーカスには悪いが、彼の身を守るためには公の場で継承権の破棄を宣言してもらう必要があったのだ。もともと本人も爵位には興味が無かったのもあり、あっさりと協力しくれた。


「叔父様、そういう事なのでもし私がいなくなったとしても、ルーカスに継承権はいきませんわ。この事はお爺様も了承されております」

 これで全ての布石を打った。

 この後、私の身になにかあれば間違いなく疑惑の目は叔父へと向くだろう。いくら上手く隠し通せたとしても今日の噂は確実に広がり、いずれ叔父を苦しめる事になる。


 もう叔父達が無事に爵位を継ぐには私を正々堂々と叩き潰すしかない。しかも肝心のクロノス商会を頼ったにしても効果は半減される。

 叔父に残された道はそう多くないだろう。




「叔父様、私は改めて宣言させて頂きます……亡き父の意志を継ぎ、アンテーゼ家の爵位は私が引き継ぎます」

「小娘が、爵位を継ぐなどと簡単に言いおって、恥を知れ」


「では叔父様は私以外に誰がいると言うのですか? ライナスの評判の悪さは私の耳にも入っておりますよ。

 すでに幾つものお屋敷から出入り禁止になっていると言うではありませんか、そんな人物が伯爵の地位を継ぐなどお爺様が許すはずがありません。唯一可能性があるとすれば私と同じであるロベリアでしょうか?

 そう言えば叔父様は先ほどおっしゃっていましたよね、『家系を守るなら男児が爵位を継ぐべきだ』と。まさか大勢の前で私にだけ言っておいて、ご自分の娘だけは別だとかはおっしゃいませんよね?」

 叔父は私の言葉に顔を赤くして怒りを押さえ込んでいる様子が見える。

 初めからあの二人は戦いの盤上にすら上がっていないのだ。唯一私の相手が出来るのが叔父ただ一人、だけどそれもお爺様がすでに潰してくれている。

 お爺様は表向きは孫たちの査定と言っているが、真意は私に爵位の重みを教えるためだと思っている。


 さて、これ以上パーティーを台無しにしてしまう訳にもいくまい。

 私は幕引きのための一言を告げる。


「はぁ……、あまり言いたくはないのですが、叔父様は現伯爵であるお爺様からすでにアンテーゼ家のは許されておりません。

 先ほどから私と対等に話されていますが、本来一市民である叔父様が、貴族である私に気安く話しかけるのはどうかと思います」

 よもや私が伯爵家の恥である、叔父の『勘当』の話を持ち出さないとでも思っていたのではないだろうか。

 叔父はお爺様から勘当された時点でもう貴族ではないのだ。


「小娘が、調子に乗りよって!」

 ここまで来てもう我慢が出来なかったのか叔父の右手が私の顔に当たる瞬間、ジーク様が腕を掴んで止めてくださった。


「カーレル殿は少し頭を冷やされた方がよろしいようですね」

 私を庇うようにセドリック様が立ち塞がってくれる。

 昔の叔父なら私に手を挙げるような醜態はみせなかっただろう、つまりは自身がそれだけ追い詰められているという証拠を意味する。

 まったく、後味が悪い……


「不愉快だ」

 叔父は捨て台詞と共にジーク様に掴まれた腕を強引に振りほどき、叔母と一緒に会場から去って行った。




 叔父夫婦が立ち去った事で私の完全勝利がここで決定した。

 後は騒ぎの原因である私達が、この会場を後にすれば問題ないだろう。


「ペディルム様、この度は私事で大事なパーティーを台無しにしてしまい申し訳ございません。このお詫びはいずれ改めてお伺いさせていただきます」

「いやいや、立派になられたお姿を見られて感服いたしました。さぞラクディア様も喜んでおられるだろう。またお会いできる事を楽しみにしておりますぞ」


「皆様もお騒がせしてしまい申し訳ございません。この後もペディルム様のパーティーをお楽しみください」

 私とジーク様は皆さんに挨拶をすると盛大な拍手が沸き起こった。


 なぜ拍手? キョトンとしている私の周りに皆さんが集まってくる。

「まさかこのまま帰るおつもりではないでしょうな?」

「えっ?」

 いや帰るつもりですよ?

 セドリック様が豪快に笑いながら私たちを引き止める。


「アリス様、先ほどの話の続きをさせてください」

「あら、せっかくのパーティーですよ。私たちとお話しした方が楽しいわよ」

「そうね、お二人の恋のなり初めなんかを聞きたいわ」

 いやぁ〜私はかえりたいのぉ〜。


 私の抵抗は虚しく、人ごみの中へと連れ去れて行かれたのだった。

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