お別れあれこれ
日本では独身です
「日本では独身です」
既婚の労働者がよく口にする冗談だ。
そうは言いながらも、国に残して来た妻子のために一生懸命働くのが外国人労働者というものである。
「ツカサさん大変です! 大分のNに子供がいたんです!」
ある朝出社すると、同僚の里山さんが今にも泣きそうな顔で掴みかかってきた。
大分のNというのは大分県にある企業で働いている労働者Nさん(30代男性 既婚者)の事である。
確かにNさんは国に子供がいる。
が、そっちの子供の話ではないようだ。
「会社の近くにフィリピンパブがあるの知ってます? そこの女の子との間にデキちゃってたみたいで……結婚の約束までしてるって言うんです」
ちなみに、Nさんはフィリピン人ではない。
日本語も英語も上手ではない彼がどうやってパブの彼女とコミュニケーションをとったのか、一番の謎である。
それはともかく、国の奥さんと子供はどうするのだろう。パブの彼女はNさんが既婚者だと知っているのだろうか。
いくら管理下にある外国人だからといって、Nさんは成人した男性である。色恋沙汰の責任は自分で取れ、という上司の判断で私たちは干渉しない事に決めた。
Nさんの雇用主も「仕事さえ真面目にやってくれればそれでいい」との事だった。
それから半月後、全くの別件でNさんが強制送還される事になった。
罪状は窃盗罪。寮の隣にある畑のスイカを盗んだのだ。
フィリピン人を妊娠させた件については黙っていた上司も、窃盗に関しては怒り心頭といった様子だった。
Nさんは結局、フィリピン人とは破局したらしい。当然である。しかし彼女よりも子供に未練があるらしく、子供だけでも引き取りたいと言っていた。
最後の最後まで、どうやったら親権を取れるかという話をするNさん。とうとう上司の怒り沸点を越えた。
「うるせえスイカ泥棒!」
Nさんが最後に聞いた日本語である。
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