圧倒的G
九州某県の山間部の寮には男性労働者七人が暮らしていた。
就業先に引き渡す際に、清掃等の生活指導は一通り行うのだが、指導通りに生活してくれるわけではない。
引き渡してから半年、寮を訪ねた私は愕然とした。
玄関は作業靴や汚れたタオルが散乱し、外にまで溢れている。土足厳禁だったはずの寮を土足で闊歩する労働者達。フローリングの床には満遍なく乾いた泥がこびりついていて、ストッキング越しにざらりとした砂を感じた。浴室は日常的に使われている形跡がなく天井の四隅に蜘蛛の巣が張っている。脱衣所にある洗濯機には埃が積もっていた。
一体どんな生活をすればこうなるのか。
ゴキブリだ。
それもかなり大きい。
私は意を決して、
と、入り口に早速小さなゴキブリの死骸がいくつも落ちていた。
更に奥へと進む。
空になったペットボトルや肉が入っていたであろう発泡スチロールのトレイが洗っていない状態で山積みにされている。
近づくとバタバタバタッと大きな音がした。恐らくそこも巣なのだろう。トレイをよく見ると中央部分がボコボコと小さく凹んでいる。
「ゴキブリが食べていましたよ」
ゴキブリって発泡スチロールも食べるんだ――この時は不思議と感動した。
今思えば正常な精神状態ではない。
そして何も考えないままに冷蔵庫を開ける。まず目に飛び込んで来たのはラップをかけていない残り物のおかずやご飯。基本的に男性労働者はラップを使わないのでこんなのは想定内である。それから次に目についたのは肉の塊。冷凍していた牛肉のブロックを冷蔵庫で解凍したかったのだろうが、剥き出しの肉をそのまま入れていたため、赤い水溜まりができていた。
そして、ゴキブリ。
冷蔵庫の中に大小様々なサイズのゴキブリの死骸が散らばっていた。
換気扇、食器棚、オーブントースター、台所の至る所にゴキブリの痕跡があった。
その後の大掃除はその日のうちに終わるはずもなく、雇用主も含め日を改めて行う事となった。
後日、窓の隙間という隙間を塞いだ状態でバルサンを焚いた。
数時間経ってから寮に入った私はそこで一生分のゴキブリの死骸を見た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます