見知らぬ女性
その日、私は空港にいた。
関東で仕事をしていたGさん(20代前半 男性)が期間満了で国に帰るので、見送りに来たのだ。
雇用先の社員の方々と彼を囲んで話していると、後ろから「Gくん」と声をかけられた。
振り返ると、そこにいたのは見知らぬ女性だった。
おそらく、若くても40代半ばといった感じの飾り気のない素朴な雰囲気の人だった。
彼女とGさんはなかなかに親しげな様子で、顔をくっつけて会話をしていた。と、Gさんが私たちの方へ向き直り、何の前置きもなく「妻です」と紹介した。
先程まで別れを惜しんでいた私たちは慌てた。日本人の妻がいるなんて、寝耳に水だった。どこでいつどうやって知り合ったのか、矢継ぎ早に質問をする。
どうやら彼女とは会社の近くにある市民センターで知り合ったのだという。お互いに国際交流クラブなるもののメンバーだったそうだ。
それにしても、私たちの質問に対して上手ではない日本語を使って必死に答えようとしているGさんをただ見つめているだけの彼女が何だか不気味に思えた。
私たちと彼女は和やかに会話が出来るわけもなく、その後の時間は気まずいものだった。
気まずいまま見送りを済ませ、帰社した私は同僚にGさんの話をした。
この業界で長く仕事をしている同僚は「あぁ、それ配偶者ビザ目当てだね」とつまらなそうに教えてくれた。
配偶者ビザ。
労働者や留学生に比べて制限が少ないのだ。長く日本で働きたいという労働者は、期間満了前に日本人と結婚する事があるそうだ。勿論、ビザ目当てである。
実際に、帰国したGさんも、再度来日した時には彼女の元に戻らなかった。
私が遭遇したのはこの一度だけだが、同僚曰く「よくある話」なのだそうだ。
※「配偶者ビザ」という名称のビザが実際にあるわけではありません。正しくは「日本人の配偶者等の在留資格」です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます