2.機材いじり

「ははは、しばらくいねぇとなんか、いつも通りでも面白く見えるもんだな」

「それ、去年も聞いた気がします」

 無理やり昼飯を詰め込まされたあと、ハウス各所のスピーカー等の向きを調整していたら、それを見てしみじみと言われ、なんだかむずむずする。

 大学を遠方にしてしまったため、長期休みくらいしかここには帰ってこれない。

「はじめは中坊に何ができると思ってたが、お前は頑張ってるよ」

 まるで成長した我が子を見る親の台詞のようだ。

「……最初のころは四藤さんが恐ろしく見えましたよ」

 なにせいつも店の中に居るように見えるのに、健康的に日焼けしてそうな肌と、筋肉質なのがありありと分かる様相をしている。最近は白いものも混ざり始めてはいるが、もっさりと髭を生やした短髪でガタイの良いおっさんは、ガキにとっては畏怖すらさせられるものだ。

「最初はそれにびびって来なくなるだろうと思ってたからな。でもガキのくせにお前は目指すもんのために怖ぇのを振り払って通い続けた。たいしたもんだぜ」

「……なんだか妙に持ち上げますね」

 むずがゆさが気味悪さに変わっていく。

「ずっと来てたやつが来なくなったら、また来てくれた時は嬉しいもんさ」

「そういうもんっすか」

 機嫌よさそうな四藤さんのその台詞に、俺は何かチクリと刺されたような気がして苦笑いしか返せなかった。それもこれもあの貼り紙のせいで思い出したモノが原因だろう。

「……こえぇおっさんでも、怒鳴りながらでも機材の扱い方教えてくれましたから。四藤さんのことは尊敬してます」

 それは本心だった。

「お前の台詞の方が妙に持ち上げてるぜ。今のお前ならわかるだろ、俺の知識なんざぁ、雑すぎてなんにもなれてねえよ」

 四藤さんは目をそらしていた。その様子に少し吹き出す。

「……お前はもっと笑えよ。その方が可愛げがある」

「俺に可愛げを求めないでくださいよ」

 ぞっとするように首をすくめると四藤さんはハッハッハと豪快に笑った。

「うっし、15時までは時間あるから、一緒に機材部屋の掃除すっぞ」

 笑いながら言う四藤さん。……これはもしかしなくても。

「去年も同じこと言った気がします。あの部屋の掃除週イチでもいいからやってくださいよ」

 高校の時までは、店休日の月曜以外ほぼ毎日通っていたから、掃除は俺がこまめにしていたというのに……。

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