9.受信
何が何でも会いたいかと言われればそうしつこい理由は持っていない。
けれど春川さんの様子はどうみても普通じゃなかった。
彼女の娘さんは今、どうしているのだろう。不穏な予想がいくつも浮かぶ。
(……多分、俺の名前もあいつは知らねーだろうな)
あの頃は何もかもにとげとげしい態度をとるような、いかにもの中二病にかかっていたから、誰ともあまり親密になりたくなくて、あの音楽室に行くときは名札や眼鏡など特徴的なものはわざわざ外していた。今思えばバカバカしすぎて恥ずかしい。
悶々と考えていると、俺の端末がメッセージを受け取る。デフォルトのままいじっていない電子音を聞いて、端末を確認した。
(……春川さん?)
向こうから連絡が入るとは思っていなかったので少し驚く。
『やっぱりあなたには、娘に会ってあげてほしいです。見せたいものもあって……もしよければ、空いているお時間を、いただけませんか?』
しばらくそのメッセージをじっと眺めた。
きっと、あの春川の身には、なにごとかが起きているのだろう。
だから春川さんは……そう、あれは……ためらっていた、のだろう。
そして、俺はきっと……俺自身には挙げられるような理由がなかったとしても、会わなければいけない。
そう思って俺は返信を送った。
時間なんていくらでもある。
夏は、まだしばらく続くのだから。
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