10.待ち合わせ

 春川さんにメッセージをもらった次の日、俺は東中の正門で待っていた。

 俺と春川さんにとって、ここは何よりも明確な待ち合わせ場所だろう。

 急なスケジュールとはいえ、この日曜日を過ぎれば来週まで延びてしまいかねない。

 ほどなくして春川さんらしき人が助手席に乗っている車が、ゆっくりと門の前に停まる。ここの門は内に入り込んでいるから、少し停めるくらいなら他者の通行の邪魔にはならない。

「お待たせしちゃったかしら……暑い中ごめんなさいね」

 春川さんと……おそらくその旦那さんが車から降りてきた。

「いえ、特に長いこと突っ立ってるわけじゃありませんから」

 俺は苦笑して言った。

 待ち合わせの40分前には着いていた俺も俺だが、30分前には到着したお二人もなかなかだ。

 春川さんたちの車には、もう一人乗っている人物がいた。

 後部座席のドアが開いて、そこから小学校高学年くらいの男の子が出てくる。

 そして……もう乗っている人は居そうにない。

 嫌な予感しか、しなかった。が。

「にーちゃんがねーちゃんのカレシ?」

 少年が茶化す雰囲気ではなく、純粋にそう聞いてくるので、俺の目は点になった。暗い気分が吹っ飛んでしまう。

「……いや、違う」

 なんとか答えると、少年は「なんだ、そっか」とか言って少し残念そうにしたので、何故か悪いことをしてしまった気分になる。

「トウヤ、失礼ですよ」

 ……この三人はすべて春川さんなのだから、仕方なく下の名前で呼ばせていただくとして……チナツさんがトウヤ君の両頬をぷにーっと引っ張っていて、トウヤ君は「いてーよかーさん~」とか口では言いつつも笑っている。それはとても微笑ましいじゃれ合いだった。

「一家総出だとびっくりさせてしまうかと思いましたが……私も会わせていただきたかったんです。すみません」

 旦那さんがぺこりと頭を下げるので俺は気にしないでくださいと言う。大人に頭を下げられると本当に困惑してしまう。こんなやり取りはこの数日で何回やらなければいけないのだろうか。

「よしっ。……じゃ、サユキのとこにいきましょ」

 そう言ったチナツさんの表情はとても明るかった。

 けれど俺にはそれが、作り笑いに見えてしまっていた。

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