7.ご相伴
演奏会が終わったのは19時過ぎだった。
真夏なので外はまだ明るいだろう。
お客さんが出払ってから、四藤さんの店のスタッフや合奏団のメンバーたちとともに、後片付けをする。スタッフが慣れすぎていて、あっという間に終わった。
「これから打ち上げをするのですが、一緒にいかがですかね?」
リーダーの初老の男性が、にこやかに話しかけてくる。
俺は迷った。こういう時の打ち上げ代は、しらんうちに上の人が払ってしまって奢られてしまうのを嫌というほどに知っている。
「俺は、一緒に演奏させてもらって楽しかったから、それだけでもう充分なんですけどね」
目を泳がせながら言うが、本心でもあった。
……本当に、楽しかった。
「遠慮をしないであげてください。あなたのおかげで演奏会を無事終わらせることができたのです。なにも返さなかったら、我々の方がダメ人間になってしまいます」
リーダーさんはにこやかな顔で穏やかに言う。
退路を断たれてしまった。
「えっと……ぜひご相伴にあずからせてください」
「あくまで謙虚なのね」
横であのヴァイオリンの女性がくすくすと笑っている。
「いえ……」
こっちにしてみれば俺は結構ミスった上に、大事な演奏会でラフな服のまま終始ステージに居た雰囲気ぶち壊し野郎なわけで。
何とも言えない居心地の悪さに、思わず額を覆ってしまう。
「演奏を楽しんでいただけたのなら……それを私たちは掲げているんですもの。ますますお礼をさせていただかないと」
それに、とリーダーさんが言う。
「ピアノ担当だった仲間がですね、電話の向こうで泣いてたんですよ。……ごめんなさい、ありがとう、って繰り返して言うんです。あの人の気持ちを、受け取ってやってくれませんか」
そんなにたいそうなことをしたわけではないし、やはりミスが結構あったしで、俺はやっぱり、苦笑いしかできない。
「そういえばおいくつですか? アルコールはオーケーですかね?」
「あ……はい、
「それはよかった」
合奏団の二人はにこやかに笑った。
そして四藤さんたちスタッフに合奏団側がお礼を言ったりした後に、この店で打ち上げが始まった。ここは居酒屋でもあるのだ。
俺は一応家族に連絡を入れた。夕飯が要らないことや、帰りが遅くなりそうだということくらいは言っておいた方が、あとあとめんどくさくないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます