6.自分の音
演奏会は滞りなく進んだ。
客入りはさすが地元の合奏団、結構多かった。クラシックをライブハウスで立ち見、というのもなかなか面白いと思う。
聞けば、ライブハウスで演奏会をやろうと思ったわけは、より個々人の演奏をみてもらいたいがためだったそうだ。そういうことなら、むしろオーケストラが収まるようなステージでは大きすぎる。
そして四藤さんはテキトーなんて言ってたが、響かせるところは響かせ、抑えるとこはきちんと抑えている。
それに対して俺の方は多少ミスした。自分に腹を立てる。
俺がミスしても詰まったり外したりすることなく合奏団の皆さんはきっちりと演奏を仕上げてくれた。中には外したところをできるだけ不自然にならないように誘導してくれた人もいたりして、正直
小さな町の合奏団とはいえ、皆しっかりと自分の音を作っている。自分の演奏に誇りを持っている。だから俺も、『俺の演奏』で応える。
大学の友人たちと一緒に演奏するのも楽しくはあるのだが、今はそれとは別の『楽しさ』を感じていた。
トリは、アイツに似たあの女性を含む弦楽器隊とのセッションだった。
あの女性が弾いているのは、アイツと同じ、ヴァイオリンだった。
きっとご親類なんだろうなぁ、などと少し複雑なものを抱えながら弾いていると、どうしても五年前を思い出してしまう。
『あなたのピアノ、素敵だと思います』
苦い思い出。でもだからこそ、似ている女性がいるこの演奏も、この人が言っていたように『楽しく』仕上げたいと思う。それが免罪符になるとは断じて思わないが、せめてそうしたい。
穏やかな気持ちで音を鳴らしていき、演奏を終える。これまでの演奏終了と同じく、拍手が鳴り響く。
そしてステージの前の方に出て行って、お辞儀をした。拍手がさらに大きくなる。程なく裾の方から合唱団メンバーが全員出てきて並び、再度客席へ向けてお辞儀をした。割れんばかりの拍手が、小さなライブハウスにしばらく響いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます