15.ティータイム
俺は半ば強引にダイニングの方に連行され、テーブルに座らされた。
チナツさんと旦那さんが紅茶やらお菓子を準備している。
トウヤくんもそれを手伝っていて、一人だけ座らされてるのは居心地悪くて仕方がない。しかし手伝いたいと言っても「あなたはお客さんなの!」とチナツさんに言い切られてしまう。
手慣れているのか想像したよりだいぶ早く、ティータイムの準備が整った。
ケーキやお菓子がすでにドン、と俺の前には置かれていて、あくまでにこやかに笑っている千夏さんの目は、ちゃんと全部食べてね、と言っている気がした。
「いただきま~す」
「い、いただきます」
春川一家の皆さんが言うので気圧されるように俺も続いた。
「ね~、聞いてくれよにーちゃん。俺さ~、ガキだからってね~ちゃんの病院、一回も連れて行ってもらってないんだぜ」
トウヤ君がふくれっ面をした。にーちゃんと言われてなんだか妙な気分になる。
ご両親はそれを聞いて心底申し訳なさそうな顔をした。
「……ごめんなさいね。本当に要らない配慮だったわ」
チナツさんが悲し気に謝る。
「そんな顔されたら俺文句いえねーじゃん」
トウヤ君はますますふくれっ面だ。しかし言い回しといいこの少年はなにか異様に老成しているように見える。
「……苦しんでいるお姉ちゃんを、トウヤには見せたくなかったんだ……しかし、お前は私たちが思っている以上に、大人だったな……すまない」
旦那さんも神妙な顔でトウヤ君に謝る。
「俺は、さ、ちゃんと知ってんだ。ね~ちゃんが丈夫じゃなかったから、とーさんとかーさんは、もうかわいそうな子供を生みたくないって、思ってたんだろ。ね~ちゃんは『弟か妹がほしい!』って言った時、かーさんもとーさんも困った顔したって言ってたんだよ。だからね~ちゃんは言ったんだよな?『生きていたらこんなに楽しいのに、どうしてそれをきょうだいで一緒に楽しませてくれないの?』とかなんとか、さ……だから、ねーちゃんは俺に、一緒にたくさん楽しいことしようねって、頼んできたんだ」
「サユキはそんなこと言ってたのか……」
旦那さんが苦笑した。
「十歳になるかならないかくらいの娘に怒られたんだから、私たちは、バカだったわね」
チナツさんも苦笑する。
「んでその結果めっちゃ頑丈な俺が生まれたんだ。どうだね~ちゃんはすごいだろう!」
なんだかよくわからないけれど、トウヤ君がそう言って胸を張るのは微笑ましかった。
「お前たち
旦那さんが困ったように言うのに対し、トウヤ君は親指を立てて応える。
この家族は、とても眩しく見える。
あいつがいたのはきっと、ずっとこうした穏やかな世界だったのだろう。
それだけでまた、少し心が軽くなる。あまりそうなりたくないのだが、きっとそんなことを言ってしまったらまたチナツさんが怒るだろう。
だから俺は言う。自分はこう在らなければならないと思っているから。
「今日は本当に、ありがとうございます。俺なんかがサユキさんを明るくできたなんて不遜なことは思えませんが……少しでも彼女の支えになれていたというなら……そのことは何よりも、嬉しいです」
それを聞いて、春川一家三人が皆とても嬉しそうな顔をしたので──俺はまたトウヤ君の老成っぷりにびびるのだった。
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