お話は主人公の女の子の一人称で描かれています。
これをどの目線で読むかが問題で、誤解を恐れずに書きますが読み終えた後には"加害者目線"、つまり親の目線で娘の日記を読んだような感覚になりました。
『そんな風に思っていたんだね。
我慢させてばかりでごめんね。
上手に甘えさせてあげられなくてごめんね。
もっと本音で、毒だろうと棘が混じっていようとも、そんな事は気にしなくていいから、その飾らない言葉で想いや望みをぶつけてくれていいんだよ。』
そんな感情を覚えました。
さて、新樫様の作品にはいつも泣かされますが、この物語も例に漏れず途中から涙止まりませんでした。
子の自尊心は親の育て方に大きく影響を受けると言います。
この物語の主人公も複雑な家庭の事情を彷彿とさせるような筋書きで描かれていますので、
きっと承認欲求が充分に満たされず、この歳まで育ったのではないかと推察されます。
ラヴストーリーとして評価されるのも当然頷けるのですが、私としては目の前に広がる世界で迷子になっている、
作中の言葉を借りるなら"ラムネ色の空を逃避行の対象としてしか見れなかった"一人の女の子が、
周りの環境を受け入れて前に進むきっかけとなるような、同じ色でも捉え方が違えばいい意味で変わって見えるような、成長のプロセスの一端を描いた物語に感じました。
そこに相手役の男の子の影響が多大にあった事は言うまでもありませんが、
彼女はこの時を機に一歩大人への階段を登ったのでありましょう。
とても素敵なお話でした。
自分のことが誰よりも嫌いで、クラスでも「いいひと」として振る舞うことでなんとか自分の居場所を作っている高校生の倉橋。友達という友達もおらず、家族ともあまり上手くいっていない彼女が、中学校で密かに思いを寄せていた竹内と再会したことをきっかけに、自分を塞いでいる殻を破る一歩を踏み出します。
自分のことが嫌いで、誰にも迷惑をかけたくないし、誰にも気を使ってほしくない。そんな気持ちに心当たりがあって、主人公の気持ちに共感していました。また、心の状態を描写する時の「きゅうっと」「ふわふわして」といったような言葉の使い方が上手くて、心地よいリズムを生み出していると思います。
色とか空の描写とか、竹内との掛け合いとか、素敵だった点は他にもたくさんあるのですが、自分は最後の電話のやりとりで少し泣きそうになりました。素敵なお話をありがとうございます。
思春期の悩みや淡い恋心を綴った短編作品。
恋愛小説としての完成度についてはたくさん言及されていますので、代わりに子どもから見た「世界」について、思ったことをつらつらと書き残しておきます。
(素直な作品紹介を読みたい方は、ここで回れ右をして他の方のレビューをご覧ください)
★
幼い頃は周りの大人たちがとても気を使い、たいていのわがままを許してくれるため、自分のために特別に作られた狭い箱庭で庇護されていることにまったく気がつきません。
しかし、学校などでの共同生活が始まると、他者との関わりから急に視野が広がり、外の世界の真実を知ることになります。
この世界は、自分一人のために作られているわけではありません。
必ずしも思い通りにならず、理不尽に感じることもしょっちゅうです。
不安に脅かされ、自分の存在意義・存在価値を見失ってしまうこともあります。
でも、世界は忌諱すべきものだけで構成されているわけではありません。
素敵なものや愛すべきものもたくさんあります。
手に入れることができない人は、近づいて手を伸ばす、ちょっとした勇気が足りないのかもしれません。
何も見つけられない人は、きっと当たり前すぎて気がついていないのでしょう。
この世界は捨てたもんじゃない。
「ラムネの空」(=幸せの青い鳥)はどこにだってある。
――そんな大人からの優しいメッセージを読み取りました。
ラムネというタイトルの妙。
酸っぱさを感じて、甘みが拡がり、しゅわっと突き抜けて、消えていく爽快感。
この作品そのものだろう。
『いいひと』の枠におさまり、自己を抑え付ける。大人でも擦り切れる息苦しさは、少女の身には酷である。
救いを求めたのは、15センチの青い空。
この空は、いつか見た空、共に見た空。
誰かを好きになり、好きな人から好かれるという奇跡こそ世界を変える最たるものだろう。
空の色は青く、青は若い色だ。
この空のフレームは、押し込められた枠ではない。
どこまでも続き、誰もが繋がる広い空だ。
これからの2人の頭上に広がる空に、光あれと思わずにはいられない。