ねむいけど金髪縦ロールを相手します。

「では、聖魔祭の試合について説明するよー♪」


生徒たちがようやく元通りになる頃寧々先生による聖魔祭の試合について説明が始まった。しかし未だに寧々に怯える者がいるがそんなことは御構い無しに説明を続ける。一方悠太は今すぐにでも帰りたいという気待ちをぐっと抑えて、あくびをしながら先生の話に耳を傾けていた。


「聖魔祭の試合はトーナメント形式でやりまーす♪なお、先ほど私の殺気を浴びても立っていた人は~上位シードとなるからね~。あと特別ゲストが来るかもね〜」


その場にいた真剣に寧々の話を聞いていた生徒たちは特別ゲストという言葉になんだろう?と考えを巡らせている頃、


(ラッキー!トーナメントであれば寝れる時間も結構あるんじゃねぇの?リマイヤのやつナイスだぜ!合間に寝れるし優勝すれば授業中にも寝れる権利をくれるとか一石二鳥じゃねぇか!)


「ねぇ悠太、今ラッキーだとか思わなかった?」


美桜はニッコリとした顔で図星をついてくる。しかしその微笑みはけして優しいものではなく怒りに近いものであった。


「なっ、気のせいだろ!」


悠太は冷や汗を垂らしながら寧々の方に向き直る。美桜は未だ挙動不審な悠太に疑惑の目を向けるが悠太は白状することなく数分が経つ。


「はぁ〜」


美桜は一向に変化を見せない悠太に諦めの入った溜息を漏らす。そして悠太もその溜息を聞き、安心したかのようにこちらも「ふぅ〜」と吐息を漏らす。


「まっ、いいけどね。だけど遅刻したらダメだからね?」

「わ、わかってるよ」


ムキになる子供のような反応に美桜もつい笑ってしまう。


「ふふっ、ほんと悠太って分かりやすいね」

「・・・・・」


悠太は何も聞こえないフリをし聞きたくもない説明を聞く。そして美桜も意識を寧々に向け聖魔祭に向けて意気込む。


「てなかんじでー寧々先生による説明会を終了しまーす!じゃあまたね~♪」


寧々の説明が終わり、寧々の威圧に怯えていた生徒たちは安堵の表情を浮かべ、先ほどの静寂が嘘かのように室内は徐々に雑談で溢れていく。


「じゃあ終わったことだし帰るか」


悠太の眠気は限界まできていたため、すぐさまマイホームに帰る準備をする。


あの対戦以降から今までずっと寝ていなかっため、寧々先生の説明の最中にも寝落ちを何度もしかけたのだが美桜がそのたんびに腹パンチをしてくるため寝るに寝れなかったのだ。


「そうだね。じゃあ帰りにちょっとよりたいと──」

「天馬美桜?お待ちなさい」

「「あ゛?」」


席から立ち帰ろうとした瞬間、呼び止められた美桜は明らかに不機嫌な顔で声主の方に頭を向ける。悠太も同じく不機嫌だったが、目の前の女性は完全に美桜に意識がいっているため完全に無視をしていた。


「なんですかその態度、わたくしに失礼ですわよ」

「何言ってんだお前?お前が勝手に声をかけたんだろうが。なんでこっちがあんたに対して礼儀正しくしないといけねぇんだよ」


そこには金髪で縦ロールの髪型をしたいかにもお嬢様といういった女生徒であった。そして悠太の言い返しにようやく「いたのですか?」と今存在を認知したかのようにわざとらしく驚きを見せる。


「あなたのこと知ってますわよ、あなた劣等生ですわよね?あなたみたいな弱い人間に用はありませんことよ?」

「は゛?」


さすがの悠太も金髪縦ロールの言葉に苛立ちを隠せない。しかし金髪縦ロールは悪びれた様子はなく至極当然かのように態度を改める様子はない。


「この世は弱肉強食ですわ、弱いものはさっさと消えなさい。それと天馬美桜、あなた先ほど先生の威圧に怯えることなく立っていましたわよね?」


金髪縦ロールは悠太とはもう喋る必要がないとばかりに完全に空気扱いをする。ここまでくると悠太も怒りを通り越して呆れすら覚えた。


「それがどうかしましたか?」


美桜は偉そうにする金髪縦ロールに苛立ちの表情を見せることなく礼儀正しく返事をする。


「いえ、別に。ただ運良く立っていたからって調子に乗らないことですわよ?」


(なるほど、こいつは自分が耐えられなかった威圧を美桜が耐えたから嫉妬しているわけか)


悠太はなぜわざわざ金髪縦ロールが話しかけてきたのかを理解する。美桜も同じく話しかけてきた理由を悟り、初めて顔をしかめる。


「まあ、せいぜい頑張ってくださいな。いい順位にまでいけることを願っていますわ」


(そんなこと一ミリも思っていねぇくせに)


「それと、自己紹介がまだでしたわよね。わたくしのの名前はヴァルシィ学園三年『エミリット=アスタルテ』ですわ。以後お見知り置きを」


その自己紹介は二人に向けているのではなく美桜の方向に向けて自己紹介をしていた。悠太は「ほんとうに俺を空気として扱っているな」と再認識する。


「それと、劣等生?あなたもせいぜい頑張ってくださいな。まっ、すぐに終わると思いますが」


その言葉は完全に悠太を見下しており、「フンッ」と鼻を鳴らす。その態度に美桜は今まで我慢していた理性が今にも爆発しそうになるが、悠太はやめとけとアイコンタクトで美桜をなんとか制止する。


「あなたみたいな虫以下の生物、さっさと散ってくださいね?とても不愉快であり迷惑ですから。それではわたくしはここら辺でごきげんよう」


エミリットはさよならの挨拶をすると回れ右をし自身の帰り道に沿って歩いていく。最後の最後まで悠太を馬鹿にした表情を浮かべていた。


エミリットが見えなくなり、生徒たちも悠太と美桜以外いなくなった途端美桜がものすごい勢いで悠太に顔を向ける。その表情はとても歪んでいた。


「悠太!なんで止めたの!?」


美桜はエミリットとへの怒りを止めた悠太の耳元に大きな声でなぜ?と怒りを含んだ言葉をぶつける。


「僕、僕悔しかったんだよ?悠太があんな女にめちゃくちゃに言われて.....」


美桜はついに目元に溜まっていた涙を流す。悠太は泣き崩れる美桜をそっと抱きしめる。


「大丈夫だ、俺はあんなのなんとも思っていないさ。それとこんな俺のためにここまで思ってくれてありがとな」


そんな悠太の暖かく優しい胸で美桜は溢れんばかりの涙を流した。

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