ねむいけど不審者?です。


闘技場が熱気に包まれる中、その少年は誰もいない教室・・に居た。


少年は眠たそうにあくびをしながら目を擦り、「終わったか」と寝起きのような弱々しい声音で呟く。


「いやぁそれにしてもあいつが使ってた【分身】ってほんとすげぇな。分身体を千分の一にまで弱体化できるとは以外にこれ需要あるな」


腕を組みながら満足げにうんうんと小首を縦に振る。


「この剣術のおかげで俺は戦わずに済んだことだし、そう考えるとあいつには感謝しなくちゃな」


悠太は過去に戦うことを選んだ自分が間違ってなかったと自画自賛し、最近めっきり見なくなったエミリットに届くことのない感謝の言葉を述べる。


「それじゃあ美桜と合流するか。あいつにも一応伝えとか──!?」


闘技場に向けて歩き始めていた足が突如ピタリと止まる。


(なんだこの魔力は?)


無意識に額に冷や汗が垂れる。そしてその瞬間、なぜかとても嫌な予感がした。


「ちっ、」


その嫌な予感を振り払うかのように悠太は歩くスピードを上げ、険しい表情で闘技場に向かった。







「そんな.....私の見当違い?」


凛は呆然とする。それと同時に複雑な感情が凛の心の中で渦巻く。


「私の勝手な勘違いで.....関係のない人を巻き込んでしまった」


それは失望や責任、そして絶望であった。


凛は地面に崩れ落ち、最後の一撃を放った右手を涙で視界がぼやけていく眼で見詰める。


その瞳に宿るのは強い後悔であった。


無関係な人を巻き込み、唯の一生徒が耐えうるはずのない攻撃を放ったために相手に重体を負わせたその責任感が、なによりも彼女の心を悲しませていた。


「私は.....私は.....霧谷くんに.....なんて.....なんて──」

「フハハハハ!!!いいぞ、久々に美味しそうな匂いを放つ人間を見つけたぞ」


突如気味の悪い声とともに闘技場にどでかい魔法陣が浮かび上がる。


その突然の出来事に先ほどまで騒いでいた生徒たちも静かになり、不安の表情を募らせる。


「あれ、美桜さん!?美桜さんどこにいったんですか!?」


そんな声を余所に魔法陣は瞬く間に闘技場全体に広がり輝きを増していく、まるで何かが召喚されるかのような規模の大きさで。


そして遂に魔法陣が煌々と輝き、凛達の視界を白一色に染める。そしてその輝きが収まる時生徒たちはそれ・・に大きく目を見開く。


魔法陣から舞い上がるかのように現れたのは燃えるような赤い髪をした年若な男。その男の耳は僅かに尖っており、肌は浅黒かった。


色々な覚醒者たちが集うこの世界にはこんなお話がある。


───そのものは神を滅ぼせし最強。そのものに誰も勝ることはできぬ。そのものは紅蓮の焔を表す髪色。そのものは常勝不敗の神殺しである───


「うむ、久々の現世だがいつの時代も人間というゴミは存在しているみたいだな」


男は「ふむ」と顎に手をつけ、考える素振りを見せると深みのある声で告げる。


「そうだ、ここに美味そうな人間の匂いがしたのだ。その者を───ん?」


男の視界にピクリとも身体を動かさず放心状態に陥っている凛が映る。それを見つけた途端男はニヤリと口の端を吊り上げる。


「フハハハ、【時間停止】」


すると闘技場のひな壇にいた生徒たちの動きが止まる。その範囲は広く、雲や気流などの目に見えないものまで停止していた。


「これで邪魔者はおらぬ、さあこの娘をいただくと───」

「はい、ストップ」


凛の身体に手が触れる瞬間、突然腕が動かなくなる。何度腕に力を入れてもピクリとも動くことはなかった。


そして自身が力負けしていることに驚愕し、横を振り向くと一人の人間がいた。


「貴様、何者だ」

「俺?俺はそうだな.....」


人間は何か迷うように瞳を上に向ける。そしてそれから数秒経ち、


「ん〜一応霧谷悠太って者です」

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