ねむいけど神殺しみたいです。


「さっきの気持ちの悪い魔力の波動はの正体はあんただったのか」


男は肯定も否定もせずただ見下すように微笑むだけ。


「人間にしてはなかなか良い腕力を持っているではないか、我も少し驚いてしまったぞ」


白々しいその言葉とともに軽蔑の眼差しを未だ向け続ける男。その目線の意味に感づいた悠太は睨み返す。


「なんだその目は。人間如きが我に歯向かうというのか、なんと愚かな」


潮笑いと共に発せられたその言葉は悠太にとってはどうでもよく、その目線を崩すことはない。


「はいはい、愚か愚か。そんなことはどうでもいいからとりあえずあんたの後ろにいる女の子回収していい?」

「何をいうかと思ったら、フハハハ」


目を片手で伏せ笑いこける男。しかし手の指の隙間から見える眼は全く笑っておらず、その眼から尋常ではないほどの威圧を放っていた。


「ならぬな。我は今この人間の娘を欲している」


男の掌から無数の光の粒子が溢れるように出る。そしてその粒子たちは凛の周りを駆け巡りながら囲う。


「てめぇ、今何をした」


悠太の顔はだるそうな表情ではなく怒り狂う鬼のような表情に一変していた。その影響からか、身体全体から黒いオーラが漂う。


「フンッ、貴様に教える義理はないがいいだろう。これは我の【固有能力】でな、対象にしたものを"完全支配"できる能力だ」


"完全支配"、悠太はその言葉に眉を吊り上げ、下唇を強く噛みながらゆっくりと一歩一歩男に近づく。その表情はすでに鬼を超えており、まさしく『阿修羅』のようであった。


「フハハハハ、今すぐに貴様を殺してこの女をた───がはっ!!!」


突如男の胸部に風穴が開く。男は大量に喀血するとともに抵抗も虚しく勢いよく前のめりに倒れる。


悠太は戸惑う。なぜなら自身は何もしてない・・・・・・からだ。


「ふぅ~、久しぶりの外の空気はやっぱりおいしいわね~。だけど全然足りない~、血の匂いが」


悠太はその声の主に「んっ!?」と驚き動揺する。


「それにしても少年、貴方のような魂は初めてよ~」


その声の主は凛であった。凛の手には男を殺した時に付着したであろう血が付いている。


凛(?)は指にべっとり付着している血を下から舐るように舌を絡ませる。


「やっぱり眷属の血は美味しくないわね~」


苦そうに舌を出し眉をひそめる。そして凛(?)の周りに漂う光の粒子たちが紅く輝きだし、凛(?)の身体に吸い込まれるようにどんどん消えていく。


「ふう、これで~ようやく私も完全復活ね~」


凛(?)の縁なす黒髪が真っ赤に変色する。その赤髪はまさしく紅蓮の炎のような紅色であった。


「完全復活?」


その声には動揺の意は感じられない、感じ取れるのは純粋な敵意。

鳴神凛の皮を被った正体不明の人物の話に受け答えしながら、頭の隅で凛を助ける方法を考える。


「ええ、詳しいことは言えないけど~、こいつが私の力の一部を私に使ったことで封印されていた魂が蘇ったのよ~」


その言葉にはまだ気になる部分はあるが、それをぶつけたところで答えるわけがないと思った悠太は言葉を飲み込む。


「ふふふ、そういえば~まだ自己紹介をしていなかったわね~。私の名前は『ウリエル・セクサ』よ~」


聞き覚えのある名前だ。悠太は数ある過去の記憶の中から目の前の人物に関係する記憶を強引に引き出し、


「そういえば聞いたことがあるな。神王の娘にして同族であるはずの神を殺した最強って話を、それってもしかしてあんたのことか?」


その問いにウリエルは動揺することなく淡々と答える。


「ええ、まあ正確には神王と吸血鬼の娘だけど~」

「だから眷属とかなんとか言ってたのか」

「まあね~、ていうか~あなたって人間?」


ウリエルは先ほどまでの妖しげな笑みではなく、何かを探るような低い声で悠太に聞く。


「は?何言ってんのあんた、もう一度幼少時に戻って勉強し直したらどうだ?」


(えっ、何この人、ありえなくない?初対面の人に『あなた人間ですか?』とか普通聞くぅ?)


「遠慮しとくわ~、でもね、あなたの魂は人間の器では収まりきれないほど.....まあいいわ~そういうことにしといてあげる」


最後の語尾に『うっふ~ん』という空耳が何故か聞こえてしまうのはおかしいだろうか。


「でさ、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」

「なあ~に~?」

「会長、いや、鳴神凛さんの体から出てくれない?」


するとウリエルの表情が突然凍りつく。まるで触れてはいけないものに触れてしまったかのような。


「ダメよ」

「何故?」

「私が~この身体を気にっているからよ~」


その言葉はとても自己中心的でわがままであり、抑えていた悠太の苛立ちが爆発する。


「あっそ、だったら.....」

「ん~?」


その瞳には光が宿っていない。唯一分かること、それは.....『無』


「あんたを殺すまでだ」

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