ねむいけど因縁を晴らします。
「貴様、一体何者だ!?」
肌にビシビシと感じるとてつもない殺気の圧力に、右足を一歩後退しながらも、自身をここまで殺気のみで追い詰める悠太に本当に人間なのかと疑問を持ち、震えている口を開く。
「俺が何者かだと?やはりお前はつくづくイカれた野郎だな」
悠太の顔はまさしく憤怒の形相であり、髪の色も凛々しい銀色から漆黒に染め上がり、瞳の色さえも黒から黄色に変貌している。そして立っている位置からものすごい風圧が溢れて出ており、並の者ならばすぐに吹き飛ばされるであろう。
「貴様、我に向かってその口調はなんだ?頭が高いぞ人間。少しは身の程というものをーーグハッ!?」
突如胸部に考えられないほどの痛苦が襲う。ゼノスはその痛みに意識が一瞬朦朧としてしまう。攻撃を加えたとおもわれる悠太は、なぜか元いた位置から一歩も動いた形跡がない。それはまるで最初から何もしていなかったかのように。
「ど...どういう...ことだ!?」
「あ?お前は何を言っている?フフフッ、しかし本当に神を殺したのか?弱すぎて話にならないな、さあもっと苦しめ!苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ!!!!」
それは『狂気』、今まさに悠太にはこの言葉が当てはまるだろう。その瞳は徐々に輝きを失くし、その虚ろになった瞳でゼノスを見下ろす。
血を撒き散らしながら、ゼノスは足に力を入れて踏ん張って立ち上がろうとしているが、「ゴフッ!」ゼノスは口から血を吐きだして、前のめりに倒れ込んでいく。
先ほどの攻撃は悠太がしていたのは明白だ。ここに悠太以外の人物は居ない。つまりゼノスには視認できない神速ともいえる攻撃をくらったということだ。そしてあまりにも次元の違う攻撃を使う目の前の人間にゼノスは憎悪に満ちた顔で鋭く睨む。屈辱のあまり拳を強く握りしめ、その腕には血管が浮き出ており、地面を強く叩くとその振動で闘技場に激音が響き渡る。
しかもどれだけ時間が経っても傷が一向に癒えない。今までどれだけ攻撃されても身体に傷一つつかず、傷がついたところで瞬時に治るほどの自然回復力を持っているはずが、一向に治る気配がない。つまり不死身に近いその自然回復よりも大幅に上回る攻撃を受けたということだ。そしてその事実を理解した時、ゼノスは心の底から怒りがこみ上げてくる。
「あ、ありえぬ...この我が人間如きに!負けるなど...あってはならぬ!!!」
酷く屈辱にまみれた顔で傷口を手で覆いながら視線を悠太に向ける。
「なんだその顔は?いい加減理解しろ、お前は俺より弱い。それは事実、それ以上でもそれ以下でもない」
「だ、だまれ!【氷絶】!!!」
自身のプライドを踏みにじられたと思ったのか、足を引きずりながらも無我夢中で自身の技を発動する。そして存在している全てのものを凍結させるほどの冷気が宿った氷の獅子が悠太の方角に向かって突撃していく。
「お前ほど醜い者はいないな。どうだ?格下と思っていた人間に圧倒されている気分は、【
ゼノスの渾身の一撃である氷の獅子が悠太に届くことはなかった。何故ならその前に氷の獅子が悠太の
もうそこにいつもの悠太はいない。怠惰でぐうたらで、常に寝ることばかり考えていて、美桜のために命をかける優しい男の子はもう存在しない。今存在しているのは目の前の男を殺すことしか考えていない唯の
「あ、ありえない。しかもなんだあの魔術は!?」
自身の知らない正体不明の
「な、なぜだ!?何故持ち上がらない!?」
ゼノスは困惑する。なぜならば何度も手で持ち上げようと腕に力を入れるが
「フッ、使えないのか?」
どこかバカにしたような態度で喋る悠太にゼノスは悠太が何か細工をしたのだろうと頭の中で決定づける。
「一体何をした!!」
「なぁに、簡単なことだよ。お前の剣を"奪った"までだ」
「────!?」
まるで悪人のような顔で悠太から発せられた言葉はまさしく神の所業であった。
契約とは魂の融合である。契約者の魂と契約剣が相入れることで初めて成り立つもの。魂が精密に繋がっているからこそ他者が介入することもできないし、神ですら略奪できるものはゼロに近いだろう。神でさえ困難とされる芸当を目の前の男は人間でありながら、契約という絶対原則さえも凌駕したというのだ。その規格外すぎる悠太にゼノスは動揺が隠せない。しかしゼノスも薄々感づき始める。目の前の人間の男が、神さえも屠った真帝祖より上回っていることに。
「この力は【
ゼノスは悠太の衝撃的なその能力内容に、口をあんぐり開け、脳内が酷く混乱する。
(そ、そんなばかな!支配能力なんぞもはや神々の域を越えておるではないか!!あやつ、ほんとうに人間なのか!?)
下種を見ているかのような眼差しをゼノスに向ける悠太の右眼は蒼くなっており、その瞳には五芒星が浮かんでいる。おそらく《支配》という能力に関係しているのであろう。それにどこか悲しげで、悔いているかのような表情をしていた。そして次の瞬間、大気が大きく揺らぐ。
「お前はくだらない欲望のために俺の大切な人、そして沢山の人間の命を奪った、その罪は重い。
悠太は右腕を少し上げ、先ほどの表情がうって変わって無表情になり、顔を下に向けると身体からドス黒くドロッとしたオーラが漂う。そのオーラを例えるなら『闇』、人々の妬みや嫉みなどの『不』の集合体かのようにも見えた。
「【我は王の
悠太の右手に青白いオーラを放つ剣が体現する。その光景と、悠太の持つ剣にゼノスはこれまで以上の驚愕な表情をする。
(まさかその剣!人間如きが
「一瞬にしてお前の存在ごと無にしてやろう。そして後悔するがいい、自身の無力さを。"第十秘剣"【
その言葉にゼノスは目を見開き、その剣から彼へと視線を移してーー背中に怖気が走った。
その瞳に映るのは、無限の絶無。
その瞳は、まるで自分を生き物とも思っていないような、圧倒的な強者が絶対的弱者へと向けるソレだった。
気がつけば触れた瞬間たちまち五体全てが跡形もなく貫かれるであろう蒼炎を纏いし剣たちがものすごい勢いでこちらに迫っていた。それを見たゼノスは、再び彼へと視線を向け、嘲笑を浮かべた。
「なるほど、初めから貴様相手に勝機など皆無だったということか。しかし、貴様の所業は忘れぬ。後に我の後継者が必ず現れる、その者は我をはるかに越えるほどの逸材であろう。その時こそお前の最期だ」
そして.....
「成る程、思い出したぞ。貴様は二千年前にいたあの少年であり、あやつの───」
その後ゼノスは跡形もなく散った。まさに一瞬であった、死ぬ間際の言葉すら聞き取れないほど速く、死体の肉片すら残さないほどに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます