聖魔祭編

ねむいけど怒られてるようです。

「はぁ~ねみぃ~」


この俺『霧谷悠太』は今授業を受けている、といっても寝ているが。


このクラスには約三十人ほどの生徒がおり、悠太とは違いみんな真面目に授業を聞いている。


「────であるからして、」


今目の前で授業を進めているこの人はルクルド先生。顔には大きな傷ができており、少し怖い。体型もマッチョで、幾多の戦場を生き抜いたらしい。うん、俺の予想だけど。


「次は『闘神』についてだが、知るものも多いだろう。闘神は昔実際にいた人物で、『賢者』サーベスト・ホロギヌスを倒したことにより人類最強の人物だと言われている。今現在は消息不明だ。容姿は少年であり、そうだな、あれから約五年たっているからしてお前らと同じくらいだと思うぞ?」

「・・・・・」


悠太はルクルドの授業に全くといっていいほど興味がなかった。いや、興味がない以前に眠たかったのだろう。幸せそうな寝顔をしながらすぅすぅと安らかに眠っている。


「そして闘神はとある武器を所持しており、それは闘神しか所持していない武器『終焉の剣ゼレウス』という武器で、見た目は蒼白く、闘神の証である『女神の涙エンシェントストーン』でできている片手剣だ」


そして先生は、教卓の周りをうろちょろしながら説明を続ける。


「まあ私も会ったことはないのだが、実績はものすごい。例えば災害級の魔物を一万体以上倒したりと他にも色々偉業を成し遂げている闘神だが、まあ会うことはないだろう」


何故か途中で目覚めた悠太は眠たそうにしつつも先生の話を重い瞼を無理やりあげながらうっすらと聞いていた。まあ七割がた聞き逃していたが。


「『闘神』ねぇ、そんなものこの世にもう存在しない。歴史に刻まれている闘神は唯の幻想だけどな。まっ、俺には関係のないことだが.....」


「おい、霧谷!授業中に寝るな!」

「あ?」


ルクルドは大量の唾を吐きながら大きな声で怒鳴り散らす。一方悠太は何故怒られたのか訳がわからないと思いつつもつい返事をしてしまう。


「貴様、いい加減にしろ」

「何が?ああ、寝てたから起こっているんですね?それなら大丈夫です、一応俺首席なんで」

「ほぅ?」


ルクルドは首席という言葉で言い訳をする悠太に一瞬眉を吊り上げる。そして悠太の席まで歩み寄り、


「だったら今から言う問題を解いてみろ!」

「へいへい」


めんどくさそうに返事をする悠太にルクルドのかろうじて保っていた理性が爆発する。怒り狂うルクルドだがそれを表情に出すことなく生意気な悠太に学生レベルを大幅に超えた問題を出す。


「では魔力を回復するにはどうしたらいい?」


その問題は簡単そうで難しく、普通なら気づくことができない引っ掛け問題であった。一般生徒ならこの問いに関して自動回復と回答するものが大半だろう、しかしそれは間違っている。『魔力を回復する』、それは自然ではなく意図的に回復する方法を問うているのだ。ルクルドは悠太が自動回復と答えるのを確信していたが、


「身体強化魔術ですよ」

「なっ!?」


ルクルドは正解とばかりに大袈裟に驚く。そんな中普通なら学生の域を超えた問題に正解すれば「すごい!」、そんな一言くらいあってもいいものだが、教室は静寂に包まれていた。そしてそれは非情であった。周りの生徒たちは知っていた・・・・・、必ず正解することを。なぜならクラスメイトたちの悠太への評価は、


『頭はいいけどクソ雑魚』だから。


これがクラスメイトが抱く悠太の評価であった。しかしそれは必然であった。いつも眠たそうにしている悠太は生徒たちいや、学園に入学してから一度も戦っている姿を見せたことがない。それゆえ最弱といった価値観が必然的に生まれたのだ。


「どうしてそうだと思う?」


正解されたことに動揺しているルクルド。バラバラだが必死に冷静を装いながら少し震えた声で悠太に理由を聞く。


「簡単なことですよ、先生は引っ掛けたかったみたいですがこんなの誰が引っかかるの?って感じですね。前置きが長くなりましたが理由をいいます。身体強化魔術は筋肉や攻撃力を強化するだけではなく細胞一つ一つ全てが強化されます。それにより人間が本来持っている治癒力も強化され、自動回復を早めるみたいですよ先生?」

「くっ、」


ルクルドは悔しそうに苦虫を噛む。そんな最中クラスメイトたちは嫌悪感剥き出しの表情をしながらコソコソと会話をしていた。



「頭だけいい雑魚が、調子のんな」

「ほんとだよ、第一こんな奴が首席なんておかしいだろ?戦うこともできない奴が何で首席なんだ?」

「あいつぜってぇズルしてるよ」

「うわー、最低だね」

「ほんとありえない、早く二年生になってあんな奴と別れたいよー」


クラスメイトたちが丸聞こえな陰口を言う中、本人が気づいている様子は全くない。


「確かにお前が賢いのは分かった。だがな!次寝たらわかっているんだろうなぁ?」

「へ?」


ルクルド先生の周りにゴゴゴゴコの文字が見えてしまうほどの威圧感が悠太に向けて放たれる。そしてここで初めて悠太は戦慄する。


(うわぁマジで怒ってるよこの人。はぁ~、なんで俺がこんなところに通わないといけないんだよ)


悠太は内心ため息を吐く。そのまま数秒間ぼーっとしていると突然机が大きく揺れる。


「おい、霧谷!霧谷!」

「は、はい!?」

「てめぇ、今説教されてるってわかってんのか?あぁ?」


ルクルドは先ほどよりも更に強く机を叩きながら悠太を睨みつける。その鋭い視線も更に険しくなった気がする。


「い、いやー実はちょっと体調がよろしくなくて.....」


悠太は右手を後ろの頭で小さく上下に動かしながら、白々しく体調不良を告げる。その誰が見ても嘘だと分かる演技にルクルドは本気で心配しているかのような目をし、


「それは本当なのか?」

「いえ、嘘ですけど(笑)」

「きりぃたにいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!」


そして、俺はまた眠る。

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