ねむいけど呼び出しをくらいました。



悠太が通っている学校『ヴァルシィ学園』は、『魔導』と『剣導』の覚醒者を育成する学校である。


魔導マフィア』とはこの世界の戦闘概念の一つ、魔術を使う者のこと。魔術は遠距離戦闘に長け、一つの魔術で戦場そのものを覆す程の可能性を秘めた力。しかしその裏も然り、それ・・は魔術の概念を超越し、現在まで行使できた者は数少なく、使えばたちまち世界が滅ぶ程の威力を持つ『禁忌』ともいえる概念が存在する。禁忌はその危険性から、人々はその存在を恐れ、存在そのものを封印した。


剣導ソウル』とは、もう一つの戦闘概念である剣術を使う者のこと。剣術は近距離戦闘に長け、一つの剣術で自然界そのものを断ち切る程の可能性を秘めた力。そしてそのどちらかの力に目覚めた者を『覚醒者エクロス』という。



そして、魔導と剣導二つ目覚めた覚醒者は『聖魔レジェンドソフィア』となる。そして発見されている聖魔の覚醒者は世界でただ一人、"闘神"のみ。


過去に意図的に聖魔を生み出そうとした研究者がいた。その研究者は第二の闘神を作るためホムンクルスを利用した。戦場に残っていた闘神の髪の毛や血液などを採取することで人工的に遺伝子を作り、ホムンクルスの遺伝子に組み込んだのだが、その最中突然現れた闘神によって研究所は破壊され、その研究者の研究材料や所持していた物は全て消滅し、呆気なく殺害された。







「で?なんでこうなった」

「お前が悪い」


そう言い返す女性は椅子に踏ん反り返っており、顳顬をピクピクさせていつも寝ていてばかりの悠太を睨みながら正論をぶつける。


そこは学園長室であり、生徒が立ち入る場所ではけしてなかった。しかも一年生だ、普通ならありえないのだが悠太の場合は何も問題はない。


「はあ~、お前が問題を起こさなければこの部屋に呼び出すわけがないだろう?」


心の中で悠太は「無理やりつれてきたんだろうが!」と文句を吐き散らすがそれを今言えば更にややこしくなるためなんとかその言葉を飲み込む。


「これで何回目だ?いい加減授業中に寝るのをやめたらどうだ?」


そう説教をするこの人はこの学校の学園長『リマイヤ』先生だ。見た目はポニーテールの髪型をした幼女だが、年齢は二百歳以上超えていると聞く。所謂謎の人だ。


「別にいいだろ。こう見えて首席だし」

「どこに首席が授業中ずっと寝ている奴がおる」

「ここにいるけど?」

「揚げ足をとるんじゃない!」


リマイヤ学園長は体をぷるぷるさせながら説教をしてくるが、その姿は学園長としての威厳は全くなく、正直言って可愛い。リマイヤ学園長は何かを諦めたような目つきでため息をつく。


「はあ~、第一お前ほどなら転移させられることぐらいわかってただろ?」

「まあ、確かに」

「大体なんでこんな奴が首席なんだか」

「事実そうなんだから仕方がないだろ」

「だから困っているのだよ。まあいいや、君には来週この学園で開催される『聖魔祭』にエントリーしてもらうよ」

「えぇー」


この上ないほどのめんどくさい強制労働・・に悠太は心底嫌な顔をする。睡眠をこよなく愛する悠太にとってその時間を奪われるということは寿命を削るに等しかった。だがリマイヤは悠太の考えを見透かしているかのように微笑み、表情を崩さない。まるで想定通りと言っているかのように。


「それにさ、一年はでちゃダメだろ」


聖魔祭とは、魔導と剣導の覚醒者が集い闘う行事だが、エントリーするのは基本二年生からしか出場できないはずなのだがリマイヤは何故か出ろと言っている。その矛盾に悠太の嫌な予感センサーが更に激しさを増しているのだが、


「それは安心しろ。毎年一年生首席は強制的に出ることになっておるからのぉ」


リマイヤ学園長はニヤニヤとしながらしてやったりといった顔をするが、正直言って可愛くて仕方がない。悠太はそれを口に出さず心の中で「俺はロリコンじゃない!」と自己暗示をするように何回も否定し続ける。


「ふざけんなよ!それだったら首席になった意味がねーじゃねぇか!」

「それはこちらのセリフだ!逆になんで首席なんかになったんだお前は!お前ほどなら力の加減もできただろうが!」

「そうだけどさ、首席取ったら授業中寝てても怒られないかなぁと思って狙ったんだが、実際こうして怒られてるし、ほんと無駄だったわ」

「はあ~、とりあえず聖魔祭ちゃんと出ろよ。優勝したら授業中寝ることも許してやらんこともないぞ」

「まっまじで!!」


悠太は目をキラキラとさせながら、聖魔祭にエントリーすることを決める。悠太が承諾したことにリマイヤは先ほどの血相から一変柔らかく、並の男であれば見惚れるほどの笑顔を浮かべる。その笑顔に悠太はつい「可愛いな」と声を漏らすが、


「な、ななな何を言っているんだお前は!?」

「は?学園長こそ何言ってるんだ?」


悠太の可愛いと言う発言を聞いた途端リマイヤは頬を赤く染め、あたふたとしながら肩を震わせる。一方悠太は突然の豹変ぶりに首を傾げ、もう用は無いだろうと出口に歩き出て行く。


「変な学園長だな」







悠太が学園長室から退室して数分後、心身ともに落ち着きを取り戻したリマイヤは机にもたれかかり、窓の外に見える青い空を眺めどこか遠い目をしながら愚痴る


「はあ~、ほんとにああいったことはどこまでも鈍感な奴だな、ほんとに困ったものだよ」


その言葉とは裏腹に嬉しそうな表情を浮かべているが、気づいた様子はなく淡々と声を漏らす。


「だがまあ五年前のあいつと比べたら少しはマシだろう。」


その言葉は誰にも聞こえることなく着々と時が過ぎていった。

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