ねむいけどどうやらやばそうです。


そこは果てしなく広い広間に薄く微笑みながらも肘をつきながら顎を手で押さえ足を組み、いかにも玉座といった椅子に座る幼い女性。見た目は幼いが誰も寄せ付けない威厳のある雰囲気を放っていた。そしてもう一人は分厚い紙を片手で持ち、目の前にいる幼い女を敬うような態度を示す、鎧をまとった女性がいた。腰にかけている剣は上等な物だと窺える。


「真帝祖が先ほど存在ごと消滅しました」

「ほう?あやつを殺したか」


幼い女はその報告を耳に入れると、眉を一瞬吊り上げ、どこか嬉しそうに言葉を漏らす。


「殺したのは神か?」

「いえ、人間です」

「なっ!?」


鎧を纏う女の言葉に耳を疑う。殺されたと聞いたときは内心歓喜に満ちており、遂に神による天罰が降りたと思っていたが、まさか人間が殺したなど思いもよらなかったのだ。


「五皇聖魔が殺ったのか?」

「いえ、ヴァルシィ学園の生徒が殺しました」

「なんだと!?」


驚きのあまり勢いよく席を立つが、人前で痴態を晒すわけにもいかず、乱れる心を抑えゆっくりと座る。だがしかしそんなことがあり得るのだろうか、自身の耳を再度疑ってしまう。ヴァルシィ学園は聖魔、つまり剣導と魔導を育成する場所だと聞いている。いわゆる未熟者が果たして誰が神殺しを殺したなんて信じるのだろうか。だが事実、報告として上がっている。


だが一つ疑問がある、なぜ真帝祖を殺すほどの強さを誇る者が今まで名前すら耳に入らなかったのだろうと。五皇聖魔を遥かに凌ぐ実力の持ち主であれば必ず名が知られるはずだ、だがそのような話は一切聞いたことがない。一体そいつは何者なのだろうか。


「其奴の名はなんと申す」


正面を向いていた顔を鎧を纏う女に向き、そこで初めて神殺しを殺した者の名を聞く。


「ヴァルシィ学園一年生首席、『霧谷悠太』で御座います」







もう少しで夕方に差し掛かる頃、真帝祖が現れてから誰もいない闘技場に二人の少年と男がいた。


「転生者?そんなやつ見たことねぇな」


悠太は両手をポケットに突っ込みながらこちらに歩み寄ってくる男を警戒しながらもそう口を開く。


「見たことなくて当然ですよ、なんせ転生者は私だけ・・ですから」


男は未だにコツコツとこちらに歩いてきており、その足を止めた時には約五メートルほどの距離であり、そこからピタリとも動くことがなくなり、淡々と喋り続ける。


「あんただけだと?」

「ええ、私だけです」

「転生できるほどの技術を持つなんてあんた、人間じゃないな?」

「いえ、れっきとした人間ですよ」


この男は嘘をついている、そう悠太は思った。『転生者』、転生という言葉の意味を知っていれば分かるだろう。『転生』、それは一度命尽きたものが新たに生を受ける者のこと、所謂"生まれ変わり"だ。


そしてもう一つの根拠、それは人間だからだ。つい先ほどこの男は人間だと言った、もし転生できる何かがあったとしても人間である以上不可能だ。生まれ変わるとしても転生する前の種族から別の種族に転生することはできない、だからこそありえない。無理やりするにも必ず人間の器が壊れ、確実に死ぬ。人間が転生できるほどの力をもつなんて不可能だ。


(いや、まてよ?一つだけ例外がある.....だがそいつぁ──)


「おやおやおや、私の話を信じておりませんね?いいでしょう、少しだけとあるお話をしましょう」


そう男が言うと、空を眺め、何かを見据えるように目を細める。抑えようともしないあくびをしながら頭を掻いている悠太に気づいている様子もなく、腰あたりに手を後ろに組みながら何かを懐かしむように男は口を開く。


「命あるもの全てが必ず持っている生命の根源である『魂』、その魂が消滅すれば二度と蘇ることはなく、冥界と呼ばれる死の墓地へ強制送還されます」

「ふ〜ん」


珍しく悠太は一語一句聞き逃すことなく真面目に男の話を聞いていた。まああくびはこの少しの間で二十回以上していたが、


「そして魂を支配する四人の最高神がいます。そのうちの一人が神々の長として長年君臨し続けている『全能神ゼウス』、そしてもう一人が魔術という概念を創り、グングニルという神槍で悪しきものを罰する『北欧の神オーディン』、この二人の神は【生】を司る神として魂を管理してきました」

「・・・・・」

「残りの二人は"魔"を極めし神『魔神ユーピテル』、そしてもう一人は原初の神であり、破壊の限りを尽くす『破壊神ティアマト』、この二人の神は【死】を司る神として冥界を彷徨い、冥界に送られる魂を支配・・していました」

「で?」

「まあまあそう急かさずに。このような話をしたのは先ほどの答え合わせをするためですよ」

「なるほど、つまりお前は──」


悠太はいつになく真剣かつ鋭く男を睨む。


「ええ、転生なんて代物を使えるのはこの四人の神しかおりません。つまり私の前世はこの四人の神のうちの一人ということですよ」


男は先ほどまで見上げていた頭を降ろし、悠太の方に向き直る。一方悠太の頭の中では色々な疑問が溢れ出ていた。


「なあ、あんたが神の座を捨ててまで転生した目的ってなんだ?」

「気になりますか?」

「ていうか神王クラスの神が人間に転生するなんて、普通あり得ないだろ?気にならないわけがない」

「確かにそうですね、では教えましょう。少し気が引けますが私の目的は巫女の捜索と保護です」

「巫女?」


悠太は聞き覚えのない言葉に首を傾げる。しかも何故か突然微かに胸に違和感を感じるが、その違和感も直ぐに収まり、気のせいだろうと思い込む。そしてその違和感により警戒心が一瞬揺らぐが、それを表情に出すことなく平常心を保ちながら男の話を聞く。


「『巫女』、それは人間でありながら不思議な力を持ち、一時的に神の力をその身に宿しながらその力を行使できるといわれている人間ですよ」

「へぇ、だがなんで巫女を探しているんだ?」


その質問は当然だろう、巫女がどれほど凄いのかは先ほどの説明で分かったが、神をやめて人間に転生するほどの何かがあるとは到底思えない。巫女が神の力を一時的に宿すというのならその際に何か巫女に伝えればいい話だ。神王クラスの神であればそのくらい造作もないだろう、だからこそこの男が何をしたいのかがわからなかった。


だがこの男から発せられた言葉は予想斜め上をいく内容だった。


「巫女を見つけ出さなければ、近い将来必ず『聖戦』が始まってしまうのです」

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最強覚醒者の禁忌聖魔 松川よづく @takara87

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