ねむいけど圧倒します。 前編


「ていうかさ、美桜が聖魔際にエントリーすればいいのに。強いし」

「あはははー悠太に言われると嫌味にしか聞こえないよ」


気鬱な悠太と苦笑いを浮かべている美桜たちは今闘技場に向かっていた。そこら校舎からだいぶ離れたところにあり、移動するだけでも数十分かかる為悠太は嫌悪感剥き出しの表情を浮かべながら歩いていた。


「ていうか闘技場ってほんと凄いよな」

「まあね、闘技場内で受けたダメージも外に出れば元に戻っているもんね」

「ほんと、どんな魔術を使っているのやら」


この世界の魔術にはランクがある。第一から第九魔術があり、数字が大きくなるほど使用難易度も上がる。この世界の覚醒者は第一から第三魔術しか使えないのが殆どだ。第四魔術は常人の域を超えており、第五魔術は化け物レベルだ。第六から第九はもはや神の領域ともいわれている。


そしてもう一つの覚醒能力である剣導は剣と同調し魔力を通すことで身体能力が大幅に上がり、剣術を放つというのが剣導の基本の戦闘行為だ。剣術にもランクがあり、第一から第九剣術がある。使用難易度は魔術とほぼ同じだ。


「やっとついたぞー。っても眠すぎるな」

「あはは、だからって授業中寝ちゃダメだよ?」


そして悠太たちは闘技場の中に入る頃にはクラスメイト全員が既に集まっていた。全員が闘技場の真ん中に座り、先生が生徒たちの前で注意事項を説明しながら実技の授業に入る。


「よし、説明はここまでだ。今から二人一組のペアを組んでもらい、模擬戦をしてもらう」

「嘘だろおい」


実技とはいっても気配を消しておけば寝れると思っていた悠太だが、二人一組のペアで模擬戦をしなければならないことに反射的に落胆の声が漏れる。


そしてその声に気づいた一人の生徒がニヤリと口を歪ませ、コソコソとしだし「すみません先生」と手を挙げる。


「ん?なんだ山内」

「はい、なんか霧谷くんがやりたくないといったことを言っていたんですよ」

「そうなのか霧谷?」


確認を取るルクルドだが悠太は否定も肯定もしなかった。その様子にルクルドはこの後に起こる展開を予想しつつも悠太が何も言わない為止めることができなかった。


「僕思ったんですよ、正直言うと霧谷くんって"弱い"じゃないですか。だから僕たち全員で教えてあげようかなって」

「・・・・・」

「共に助け合い共に切磋琢磨する。すごく素晴らしいことだと僕は思うんですよ。だからみんないいよな!?」


その言葉にクラスメイトたちは大きく頷く。ルクルドは悔しそうな顔をするが一方悠太は平然としていた。それも何故か嬉しそうな顔で。


(ラッキー!これですぐ終わらんじゃん!やっほーい!やっぱりみんな俺のことわかってるー)


悠太は気づきながら・・・・・・も見事に勘違いをしていた。悠太が内心ガッツポーズをする中クラスメイトたちはしてやったりといった表情をしていた。


そして山内の意見は生徒全員の同意により実行される。そして先ほどまで渋っていたルクルドも何故か参加し、やる気Maxの悠太と数十メートル離れ対面する。


「それじゃあ〜みんな行くぞ!」


その掛け声と共に悠太対生徒たちの戦いの火蓋が切った.....かのようにみえたが、


「う、嘘でしょ?」

「うわああああああああ」

「ありえないありえないありえない!私が雑魚なんかに!!!」


その光景はまさしく蹂躙であった。


山内の開始の合図と共に悠太は一瞬という時間よりも速い速度で生徒たちの間に入り次々とバッタバッタと倒していた。そのあまりにもの速さにクラスメイトたちは到底ついていけない。


気づいたら何十人もの生徒がやられているのだ。驚きと自分よりも弱いと思っていた劣等生に格上であるはずの自分たちが圧倒されているこの状況に未だ残っている生徒達は顔が屈辱にまみれる。そして剣導の生徒達は同調し必死に応戦しようとするがそれも虚しく一瞬にしてやられる。


「あ、ありえねぇ、同調もしていないのになんて身体能力をしてやがる」

「あんななまくら剣で私がやられるわけがない!」

「ば、化け物....」


今悠太が使っている剣はどこにでもありそうな剣よりも質が悪い剣であった。そんな剣に次々に倒されていく生徒たち、そして一度も同調することなく猛スピードで倒していく悠太。それはまさしく"圧倒"していた。


「う、嘘だろ?」


山内は目の前で起きている光景に大きく目を見開き、額には冷や汗が流れていた。そしてその場から一ミリも動かない。いや、動けなかった。山内の全身は震えており、腰にかけている剣を引き抜こうとするが手が震えてうまく抜けない。


「く、くそ!こんなはずじゃ、こんなはずじゃない!!」


そして自暴自棄になるかける手前、「はっ!」と何かに気づき、勝利を確信したようにニヤリと薄気味悪く微笑む。


「まだだ、まだ大丈夫だ。まだ魔導たちが残っている」


そう、悠太が今倒している生徒は全て剣導たちであった。基本魔導は後衛型なのであまり前に出るものは少ないため、未だ残っている生徒の殆どが魔導なのだ。


「か、勝てるぞ、フヒヒヒヒ、馬鹿めお前の負けだよ霧谷」


先ほどの恐怖心からうって変わって喜びに満ちる山内だが一方悠太は剣を振りながらのうのうとしていた。


「ていうか殆どが第一剣術じゃん。まあ楽でいいけど。あとこの剣で戦うこっちの身にもなってくれないかな?結構きついんですけど、まあ別にいいけどさ。それとやっぱり同調したほうが楽だよな〜」


同調をしたがる悠太だがやらない。いや、やれないといったほうが正しいだろう。しかしそれを知る由も無い生徒たちは同調をせずにここまでの身体能力を発揮する悠太に恐るが、悠太はそんなもんしらんとばかりに攻撃をし、剣導全員を倒し終える。


「うわぁ次は魔術か、やっぱり断っとくべきだったかな。めんどくさすぎる」


怠惰な悠太の無双はまだ終わらない。

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