天才博士の誤謬

天才博士の誤謬 問題編

「先輩! 先輩!」

 バタバタと騒々しい足音をたてながら、少女が駆け込んでくる。

 小柄で目が大きい活発そうな少女だ。大きめの制服はいまだ大きめのままで、少女の成長期は終わってしまったかのようだった。

「ん?」

 窓際の椅子に座り本を読んでいた青年が顔をあげる。

 少女とは反対に、背は高く切れ長の目をした青年だ。本を読んでいる姿はどことなく物憂げで、近寄りがたい雰囲気は変わらないままだ。

 突撃という言葉が似合いそうな勢いで、少女は青年の向かいにの椅子に座り身を乗り出した。

「今回はなんと続編です!」

 青年は少しだけ驚いた様子で目を開き、しおりを挟んで本を閉じた。

「じゃあ聞こうか」

 少女は楽しそうな様子で大きく目を見開き、たっぷりと息を吸い込んでから話し始めた。

「じゃあいきますよー!」



 そう、これは実際に起きた事件などではない。

 後輩の少女が先輩の青年のために問題を出し、先輩の青年が後輩の少女のために解答する物語である——



 さあ! 前回は毒殺に失敗した天才博士のお話です!

 憎かった相手は死んだものの博士は納得できません。自分が殺さなければ恨みは晴れないのです!

 そこで博士は考えました。そうです。タイムマシンです! 過去にもどって自分で殺そうと考えたのです! 博士はなんでもつくれる天才なんです! しかも、相手が死んだ時間、博士は別の場所にいますからアリバイも鉄壁! 罪は本来の殺人犯がかぶってくれるのでさらに完璧です!

 しかし過去にもどって殺すのはいいとして、大きく過去を変えるのは危険です。できるだけ過去を変えずに殺すためには事件の詳細を知る必要がありました。

 さて前回の事件は捜査が難航していて、博士のところにも警察はやってきました。死ぬ数日前に会っていたからです。これ幸いと博士は捜査に協力するフリをして事件の詳細を聞き出します。

 被害者である相手は、刃渡り二十センチ程度の刃物で背中から心臓を刺されていたそうです。凶器は発見されていません。殺害現場は自宅で、一人暮らしだったため発見が遅れていました。そのため死亡推定時刻が夜の十時から朝の八時の間と幅があります。ちなみにその時間、博士は研究室にいました。

 その他もろもろの詳細を聞き出すことに成功した博士は、いよいよ作戦を決行します!

 まずは刃渡り二十センチ程度の包丁を用意して過去にもどります。本来の犯人と出会わないよう気をつけながら、死亡推定時刻の一番早い時間、夜の十時に相手の自宅に行きます。そして油断している相手を背後からブスリッ! とひと突きして現在にもどってきました。

 今度こそ間違いなく自分の手で憎い相手を殺せたことに博士は大満足していましたが、しばらくして博士は自分の勘違いに気づきます。しかし、時すでに遅し! 博士は殺人犯として逮捕されてしまいました!

 さて! 博士の勘違いはなんでしょう! そして鉄壁のアリバイをもつ博士が逮捕された理由とは!

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