古物商詐欺事件
古物商詐欺事件 問題編
「先輩! 先輩!」
バシャン! と激しく扉を開けながら、小柄な少女が飛び込んできた。
小さな顔に大きな目を輝かせた、好きな言葉は「元気いっぱい夢いっぱいです!」とでもいいそうな雰囲気の少女だ。
「ん?」
机にノートを広げ勉強をしていたらしい青年が少女を見る。
少女とは違い、背はそれなりに高く、細身というよりは華奢という表現の似合う、好きな言葉は「人間は考える葦である」とでもいいそうな雰囲気の青年だ。
少女は「合体!」と言いながら青年と向かい合うように椅子に座り切りだした。
「今回は詐欺事件です!」
勉強の邪魔をした騒がしい少女に嫌な顔はせず、青年はノートを閉じて勉強を中断した。
「じゃあ、聞こうか」
少女はただでさえ大きな目をさらに輝かせ、詐欺事件について話を始めた。
「じゃあいきますよー!」
そう、これは実際に起きた事件などではない。
後輩の少女が先輩の青年のために問題を出し、先輩の青年が後輩の少女のために解答する物語である——
先輩は「押し買い」って知ってますか? ようは押し売りの逆で、法外な安値で強引に金品を買い取る悪徳商法です。
あるところにご主人を亡くして一人暮らしをしているおばあさんがいました。名前はウメさん。
そんなウメさんのところに、一人の男の人が訪ねてきました。コワモテのゴツい人とかじゃなくて普通のサラリーマンって感じの人です。名前はツボイさん。
その人は、古物商をしているが最近は売ってくれる人が少なくなって困っている、骨董品や貴金属、ブランド品でも構わないので何か売ってくれるものはないかと近所を訪ねているとのことでした。
ウメさんのご主人は焼き物を集めていて、ご主人が亡くなってからは押し入れにしまいっぱなしになっていたんです。
年金生活だったウメさんは、焼き物に興味もないし、生活の足しにもなるし、しまいっぱなしにするよりは売ってしまったほうが焼き物にとってもいいだろうと考えて、ツボイさんに見せることにしました。
ご主人のコレクションは四十点ほどあり、それを見るなりツボイさんは「これはすごいですね!」と言って、喜々として鑑定を始めました。「特別に高価なものはありませんが、どれも良い品です。ご主人は良い趣味をお持ちだったんですね」と、次々と鑑定をしていき、合計で二百万円の値段をつけました! 「まあ、そんなに」とウメさんは驚きながら最後の一つを押し入れから出してきました。それは桐の箱に収められた小さな茶碗でした。まだ結婚したばかりのころにご主人が買ってきたもので、なんと当時の年収の二倍もしたものです! ご主人は亡くなる前に「これは今なら五百万は下らない。困ったら売りなさい」と言っていたそうです。
ツボイさんは少し緊張した面持ちで、その茶碗の鑑定を始めました。他の品よりも丹念に鑑定をしたあとウメさんに言ったんです。「残念ながら、非常によくできていますがこれは偽物ですね……市場に出しても五千円は超えないでしょう」と——
ウメさんは「そうですか……」と残念そうにしていたのですが、ツボイさんは「たしかに偽物ですが出来栄えは素晴らしいものです。必要ならこちらで引き取りますが、使ってあげるのが一番だと思います」と言って他の品だけを買い取っていきました。
ウメさんはいまさら使う気にもなれず茶碗をしまいなおしていたんですけど、数週間後に別の男がやってきました。
その人も古物商で、何か売ってくれるものはないかと訪ねてきたんです。名前はサラヤシキさん。
ウメさんは、この前全部売ってしまった、残ってるのは偽物の茶碗だけと話したんですが、サラヤシキさんはその偽物を見せてほしいと言ってきました。ウメさんが偽物の茶碗を見せるとサラヤシキさんは「確かにこれはよくできていますね……ものは相談なのですが、よかったらこの茶碗、個人的に五万円で譲っていただけませんか?」と言ったんです!
ウメさんは驚きました。偽物で五千円って言われたものを十倍の五万円で買いたいと言うんですから!
理由を聞くと、サラヤシキさんは贋作をコレクションしているんだそうです。「この商売をしていると本当によくできた偽物に出会うんですけど、売るわけにもいかないし、見た目はいいので部屋に飾るようにしたらいつのまにか集めるようになっていたんです」と言われて、どうせ使わないものだしとウメさんは譲ることにしました。
さてさて! その後ウメさんはとんでもない事実を知ります! ツボイさんが買い取っていった焼き物は二百万どころか一千万以上の価値があったんです! ただし、偽物の茶碗は事実偽物で、ツボイさんの言うとおり市場価格では五千円程度の品物でした。
ところがですね、その茶碗を五万円で譲り受けたサラヤシキさんの方が後日、なんと詐欺罪で逮捕されたのです! ツボイさんは逮捕されていないのに!
さあ! なぜでしょう!
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