先輩と後輩

真白(ましろ)

フォーク殺人事件

フォーク殺人事件 問題編

「先輩! 先輩!」

 バタバタと足音を盛大に響かせながら、少女が駆け込んでくる。

 少し大きめの制服に身を包んだ、ショートボブのいかにも活発そうな少女だ

「ん?」

 椅子に腰かけ本を読んでいた青年が顔をあげる。

 少女とは対象的に、肌は白く、前髪が目にかかりそうなほど長い運動とは無縁そうな青年だ。

 少女はガタガタと椅子を動かし、青年の前に座り身を乗り出して言った。

「今回は殺人事件です!」

 殺人事件という物騒な単語におどろく様子もなく、青年はやれやれと聞こえてきそうな動作で、しおりを挟み本を閉じた。

「じゃあ聞こうか」

 少女はオモチャを手にした子どものように、満面の笑みを浮かべ、殺人事件について語りだした。

「じゃあいきますよー!」



 そう、これは実際に起きた事件などではない。

 後輩の少女が先輩の青年のために問題を出し、先輩の青年が後輩の少女のために解答する物語である——



 殺人事件が起きたのは、とあるマンションの一室です。

 ある日曜日の朝、警察に「フォークが……彼女にフォークが……」とうわ言のように繰り返す通報があり、なんとかなだめすかして話を聞くと、彼女が部屋で死んでいるとのことでした。

 被害者はサトウユウコさん、二十六歳の女性です。死因は喉に根元まで刺さったフォークによる……えーと、ショック死? まあこまかい死因はどうでもいいです。とにかく根元までぶすりっとフォークが刺さって死んじゃったんです! 死亡推定時刻は土曜日の夜。部屋には争った形跡があるものの、金品は盗まれておらず顔見知りの犯行と推定されました。。

 第一発見者は被害者であるサトウさんの恋人、ヤマダシンイチさん三十歳。

 サトウさんとは結婚を控えていて、その日も朝から準備やらなんやらがあって彼女の家に行ったそうです。

 ところがインターフォンを鳴らしても出てこない、携帯を鳴らすと部屋から着信音が聞こえるけど出ないんで、合鍵つかって中に入ったらびっくり! 彼女が倒れていたんです!

 現場の状況から怨恨による殺人と警察は判断し、被害者の人間関係を洗ったところ——人間関係を洗うってなんか友達整理するみたいな言い方ですよね——被害者に恨みをもった人間、容疑者が二人浮かび上がってきました。

 一人目の容疑者は被害者の元カレで、食品関係の仕事をしてるスズキアキラさん。ちょっとストーカー気味な人というか、完全なストーカーで、サトウさんに無言電話やらサイコな手紙を送っていたんです。事件の数日前にも「他人の物になるぐらいならいっそ殺して俺も死んでやる」と手紙が届いていました。

 もう一人の容疑者は被害者の友達で、しかもヤマダさんの元カノ! タカハシショウコさん。彼氏を寝取られた恨みで色々とトラブってました——NTRですよNTR——タカハシさんの友人が飲みに行ったときに「あいつ殺してやる!」って言ってたことを証言しています。

 二人とも事件当時のアリバイはなし! 凶器となったフォークもどこにでも売ってるようなもので、入手経路は絞り込めませんでした。

 さあ! 犯人は誰でしょう!?

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