お嬢様誘拐事件

お嬢様誘拐事件 問題編

「先輩! 先輩!」

 慌ただしく少女が入ってくる。

 少女は大きめの紙袋を抱えていた。紙袋は中身が入っていないのか薄く潰れていたが、少女は大事そうに両手でしっかりと抱えている。

「それは?」

 青年は読んでいた本から顔を上げて紙袋に目をやった。

 少女は青年の向かいに座りながら、潰れた紙袋の中から折り紙を取り出した。

「従兄弟のお兄ちゃんが事故で入院したんですよ。命に別状はないみたいなんですけど、入院が長引きそうなんで千羽鶴を折ろうかなって。それより先輩! 今日は誘拐事件ですよ!」

 少女は取り出した折り紙を机の端によけて、机に身を乗り出した。

「じゃあ聞こうか」

 青年も本に栞を挟み机の端によけて、少女に向き直った。

「じゃあいきますよー!」



そう、これは実際に起きた事件などではない。

 後輩の少女が先輩の青年のために問題を出し、先輩の青年が後輩の少女のために解答する物語である——



 ある学校に、超がつくようなお嬢様がいました!

 お母さんは小さい頃に病気で亡くなってるんですけど、お父さんはIT企業の社長さんで、一代で成り上がった敏腕さんです! 完全な実力主義者で、年齢も学歴もキャリアも関係なく、成果を出した人は上にあがれるし、成果が出ないと切っちゃうような人だから、慕ってくれる部下も多いけど恨みもたくさん買っていたようです。

 そんなお父さんですから、お嬢様にも厳しくて、学校の成績にもうるさかったんですよ。しかも、お母さんがいないのもあってちょっと過保護なところもありまして、学校の通学は運転手付きの高級車で送り迎え、家には住み込みのお手伝いさんがいて、家庭教師が毎日勉強をみにきます。もちろん全員女性です。

 でもお嬢様はそういう生活に嫌気がさしていて、ある日かねてよりの計画を実行するのです!

 彼女は弓道部なんですけど、その日は初めてのサボりをします! そしてお迎えの車が来るまえに、学校を抜け出すことに成功するのです!

 さて、いつもの時間になってもお嬢様が学校から出てこないことを心配した運転手が、弓道部の顧問に確認したところ、なんと今日は部活に来ていないというのですからさあ大変! 家に連絡しても帰ってきてないし、慌ててお父さんに連絡します!

 連絡を受けたお父さんは仕事をキャンセルしてお嬢様を探しますけど全然見つかりません。そうこうしているとお父さんの携帯にとんでもないメッセージが届きます! もちろんアレです! お前の娘は預かったってやつです!

 犯人からの要求は一億円! 警察に知らせたら娘の命はないと思え。と定番の脅し文句つきです!

 電話ではなくメッセージでの要求なので、犯人が男か女かもわかりません。お父さんはお嬢様になにかあっては大変と、要求通り警察にも連絡せず、とにかく一億円を用意しました。引き渡し方法は一億円を入れたカバンを公園に置く、もちろん一人で。それを確認したら娘は解放してやるとのことでしたが、お父さんは不安です。一億円はいいとして、もしお嬢様が帰ってこなかったら、帰ってきたとしても無事ではなかったらと気が気ではありません。かといって、犯人に逆らうわけにもいかず、お父さんは指示通り、公園に一億円入りのカバンを置きに行くことにしました。

 カバンを置くと、すぐに犯人からメッセージが届きました。近くの公衆トイレに娘を寝かせてある。そのメッセージをみたお父さんは公衆トイレに駆け込むとお嬢様を発見します! お嬢様は怪我もしてなくて無事な様子で、お父さんは安心しました。

 しかしお父さんはお嬢様を怖い目にあわせた犯人を許すことができず、警察に通報することにします。お嬢様から犯人の情報を聞くと、犯人は男性で身長は百七十センチ前後、痩せ型で年齢は三十九歳。服装は黒のパーカーとジーパンにスニーカー。マスクをしてたから顔はわからないけど額に大きな傷があった。誘拐に使われた車は白のワンボックス。目隠しされてたから場所はわからないけど、移動に一時間はかかっていないはずとのこと。

 さて、犯人を捕まえるためにお嬢様から話を聞いているうちにお父さんの顔色が変わっていき、お父さんは警察に通報することをやめてしまいます!

 さあ! なぜでしょう!

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