おい、ダンジョンってさ、稼げるらしいぜ
鈴村 りくを
夢の職場、ダンジョン
「おい、ダンジョンってさ、稼げるらしいぜ?」
「…は?」
したり顔でそんなことを宣(のたま)う目の前の男、ガキの頃通っていた教会の私塾で出会った悪友で、大変遺憾ではあるが俺の十年来の親友である。
13年前、世界に突如【ダンジョン】と呼ばれる洞窟が現れ、共に故郷の農村を追いやられてきた多くの民草達は、各々が今日を生きるため、弱々しくも力強く生活をしていたのである。
「ダリル…ちょっと飲みすぎだぜ。ダンジョンって言ったってよ、どこに行くってんだよ。」
「バカ言え。酔ってなんかねぇよ。それに、もう目星は付いてんだ。」
ダリルがテーブルの上に金属製のプレートが置かれた。
俺に読めと言う事らしい。
嫌な予感しかしないが、一応読むことにした。
「何々…〈冒険者証明 クリス 〉…っておい。」
「日雇いで細々やってくのはもう散々だ。俺と一緒にでっかいヤマ、当てようぜ?」
「はぁ…お前は昔から本っ当に強引だよな。」
「へへ、まあな!」
「いや褒めてないから。」
○○○○○○
「うっひょー、ここが【ネズミの洞】って場所か~…」
「なあ、本当にこんな装備で大丈夫なのか?」
「ん?大丈夫だって!初心者向けのダンジョンなんだからさ!」
「それにしたってよ、武器と呼べそうなのは剣一本、防具は皮のコートだけ、後は大体野宿用の雑貨だぜ?」
「心配すんなって!今凄い有名な冒険者達だってよ、最初は俺らみたいな貧相な格好で戦ってたんだぜ?」
「でもよ…」
「安心しろって!道中には結構安全地帯とかもあるみたいだしさ、気を付けてれば大丈夫だって!」
「まあ、そうだな……大丈夫か!」
無駄に自信満々なダリルに活力を貰い、俺達はダンジョンの入り口へ足を踏み出した。
冒険譚の主人公は、得てして始めての冒険に不安を覚えるもの。
そう、ここから、俺達の冒険が始まるのだ---
---そう思っていた時期が、俺にもありました。
「…はぁ…はぁ…はぁ…」
あんのクソヤロウ!!
ただ今絶賛ピンチ中です。
いつの間にか周りにはこのダンジョンの看板魔物である、大量のネズミ型モンスターが群れを成していたのだ。
所々、俺程度ではとても敵わなさそうな化物もチラチラ見える。
「ネズ公が…バカにしやがって…!!」
息を切らしながらも悪態をつける様では、俺にはまだまだ余裕があるのだろう。
「ダリルーーーッ!!!戻ったら覚えておけよ~~~~ッ!!!」
筋肉が悲鳴を上げ始めたが、今は無視して走るのみだ。
暫く走っていると、ネズミたちは突然追いかけてくるのを止めた。
それを不審に思いつつもそのまま逃げるのを止めなかったのだが、目の前から近付いてくる巨大な蛇の化け物を見た瞬間、俺の体は正に蛇に睨まれた蛙のごとく、びたりとその動きを止めた。
「な、何だ…これ…!?」
見れば、俺の体は指先から石に変わっている途中だったのだ。
「(やべぇ、死ぬ…)」
俺の意識が【死】と言う絶望に染まっていく。
逃れられない暗闇が迫ってくる。
意識が深い黒に染まっていく中、結局ここまでかと言う、ある意味諦めのような感情が、俺の中に渦巻いていた。
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