髑髏の騎士
バジリスク。
その目を見つめたものは石と化し、またその毒は恐ろしいほどの致死性を持った、巨大な蛇型の魔物だ。
発見例が少ないため、その素材が市場に出回った日には、数億ガルドと言う、目が飛び出そうな額の値段が着くと言う。
「おい、あの周り…」
バジリスクの周囲には、不運にも出くわしてしまったのか、はたまた無謀にも立ち向かったのか、多くの冒険者達の石像(成れの果て)が建っていた。
「石化下しが効くのは石化後一時間だけ…あの人たちは…もう…」
「くそっ…」
バジリスクの後頭部を睨み付ける。
歯痒い事に、今俺に出来ることは何もない。
そう痛感せざるを得なかった。
「どうする?このままどう切り抜ける?」
「次のフロアに繋がるのはこの道だけ…本当に最悪な位置取りだわ…!!」
「…後ろ側から通り抜けるのはダメなのか?」
「アイツは正面を向いているわ。つまり、私たちがそのまま向こう側に行こうとすると、必ずどこかでアイツの視界に入ることになる。それに、運良く通り抜けられたとしても、蛇には獲物の熱を感じ取る能力があるわ。いくら目を見なければ良いからとは言え、噛みつかれたり、叩き潰されればそれでお仕舞いよ。それに…あの固そうな皮膚には、私のボルトも通用しなさそうだしね。」
アリスは親指の爪をかじる。
「やっぱり…ここは一回退いた方が得策かも…でも、もしかしたら、アイツは野営地に来るかもしれないわ…。」
「その心配はねぇ筈だ。」
「…根拠は?」
「考えても見ろよ、俺はアイツに石にされた。そして俺が居たのは深層エリア。」
「…冴えてるじゃない…!!」
「恐らくアイツは、何か別の…抜け道みたいな手段で移動しているんだ。第一、あんな魔物がここに居ると分かれば、他の冒険者達が気が付かない訳が無い。」
ちょっと待て、そもそも超級の魔物が、何でここに居るんだ?
アイツにかかれば、深層の魔物達を蹴散らして快適な寝床を作るなんて屁でも無い筈だ。
「あ!あれを見て!」
アリスが指差した方向に目を向ける。
すると、そこにはバジリスクと…謎の人影が居た。
身長二メートル程の、大柄な人影が立っていた。
目を凝らして良く見れば、髑髏のフェイスガード、闇色の外套に身を包み、片手で扱うには少々大柄な剣を携えた騎士が、そこには居る。
「…?」
まるで死神のような印象を受ける、アイツも魔物なのだろうか。
それにしては、ヤツの仕草には知性が垣間見れる。
バジリスクは敵対状態のようだ。
蛇特有の、シューという威嚇音が聞こえてくる。
「何だ…?アイツ…。」
バジリスクが騎士に飛びかかった。
騎士はあっさりと捕まってしまい、バジリスクは彼の身体を締め上げた。
騎士の体から、ミシミシと言う嫌な音が聞こえてくる。
バジリスクが彼の目に自分の目を合わせた。
騎士は石化…しない。
『オ、オ、オオォォォォォォォォォォォオッ!!!』
大気が震えるような咆哮。
黒い騎士は圧倒的な腕力でもって拘束を解き放ち、その大振りな剣でバジリスクの鱗を切り裂いていく。
バジリスクの体に赤い筋が走る。
余りのスピードに目が付いていけず、騎士が黒い軌跡となって見えるようになる頃には、バジリスクは呆気なくその首を刈り取られていた。
信じられない光景だ。
たった一人で、トップクラスの強大な魔物であるバジリスクを殺してしまうのだから。
騎士の青く輝く双眸が俺を射抜いた。
『何者ダーー』
「!?」
俺の目の前に、黒い騎士が迫る。
「く、クリスっ!!!」
アリスの持つ黄金色の短剣から勢い良く雷撃が放たれた。
しかし、騎士の外套が翻る度に簡単に打ち消されてしまう。
『クク…弱い、弱いーー』
騎士の剣が、動けない俺の首に当てられる。
まるで、俺の恐怖を啜るかのように、ゆっくりと刃を引く黒い騎士。
自分の首なのに、自分の物じゃ無いみたいな感覚に陥る。
薄皮がプチプチと裂け、真っ赤な血が流れ出した。
「止めてーーーーっ!!!」
アリスが騎士の腕に取り付き、俺を殺すまいと必死で抵抗すると、騎士の動きが鈍り、剣が首から離れた。
「クリスーーーかはっ!!」
騎士はアリスを振りほどき、壁に叩き付けた。
俺は騎士に出来た隙を逃さず、その空いた脇腹に剣の切っ先を突き立てた。
『ウウ…グゥ…ァ…ッーー』
苦しみ出し、どこかへ走り去る黒い騎士。
俺はアリスに駆け寄り、その体を抱き起こし、意識を確認するため揺さぶった。
「アリス!!大丈夫か!!」
「う…けほっ、けほっ…だ、大丈夫よ…何とかね…。」
嬉しさのあまり、アリスを抱き締めてしまった。
「~~~~~~っ!!(え!?何!?どうなってるの!?)」
「良かった…!!良かった…!!」
「!?!?(ホアァァァァァァァアア!?)」
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