お宝の予感
石像が建ち並ぶ中を歩んで行く。
彼らの顔はどれもが苦痛と恐怖に満ちたものであり、それを考えればバジリスクと言う魔物がどれ程の恐ろしさを秘めているかが分かった。
『俺が生き残ったのは、あくまで運が良かったから』
そう考えるだけで、止まっていた震えが蘇る。
「大丈夫?」
「あ、ああ。大したことはねぇ。」
アリスは不安そうな表情で俺を心配している。
「とにかく、この事はギルドに報告した方が良さそうだわ。」
アリスは青い顔でそう呟いた。
確かに、バジリスクを簡単に殺すような奴が現れたともなれば、ギルドも動くに違いない。
不思議なことに証拠であるバジリスクの死骸はどこかへ消えてしまったが。
「でもよ、こんな話が信じられるか?」
「それなら大丈夫よ。だって私、ホーエンハイムですもの。…家柄に頼るのは癪だけど…大勢の命には変えられないわ。」
なるほど、ホーエンハイムの現当主が言ったことともなれば、かなりの説得力がある筈。
「上級の冒険者として何も出来ないのは歯がゆいことだけれど、あの様子じゃ、私以外のもっと強い人に頼むべきだとは思わない?」
「まあ、そうだな…」
「私も、貴方が居なかったら…私、死んでたかもしれないし…それに…あれは、ちょっと格好良かったし…」
「え?何?」
「~~っ!!う、うるさいわね!!」
「??」
良くわからないが、いつもの調子に戻ったようで何よりだ。
「まあここで相談していても埒が空かねぇ。さっさと上、行こうぜ。」
「あっ…またそうやって…もう、バカっ!!」
「悪い悪い。」
そう言うと、俺は地面に置いていた袋を背負い、不機嫌なアリスを宥めながら再び地上を目指し歩き出した。
○○○○○○
「って…何だこれ。」
路の半ば、俺達はいかにも怪しい、不自然な地面の盛り上がりを発見した。
まるで今さっき穴を埋めたかのようなものだ。
「ああ…【宝箱】ね。大きなダンジョンだと良く見かけるけど…正直二束三文…って何してるの?」
「見りゃ分かるだろ、掘ってる。」
アリスはバカにしたような顔でやれやれ…とか言ってる、が。
男として、宝箱と聞けば飛び付かないわけがないだろう。
暫く掘り続けると、真新しい革製の袋が出てきた。
ガシャガシャと言う音が聞こえるので、何か金属製の物でも入っているのだろうか?
「ん!?」
袋を開くと、鈍い灰色の、頑丈そうな鎧が見えた。
「あら、大当たり……ってええ!?」
アリスは愕然とした顔で俺を見つめる。
可哀想に、今まで良い宝箱に恵まれなかったのだろう。
「ふっ…」
俺はわざとらしい笑みを顔に浮かべる。
そんな俺を、アリスは顔を真っ赤にしてポカポカと殴り付けてきた。
ふはは、痒い痒い。
「さーて、ご開帳~」
「ふん!!別に悔しくなんて無いからね!!」
「ハイハイ、乙です。」
「~~~~っ!!なによ乙って!!全然面白くないわよ!!」
取り出した鎧は、全身を覆うタイプのもので、しっかり滑らかな素材のインナーまで付いていた。
アリスは地団駄を踏んで悔しがり、ダンジョンへの恨み言を叫んでいたが最早負け犬の遠吠えだ。
誰も装備したような形跡がないため、ここで着ていっても良いかもしれない。
とりあえず服を脱ぎ、インナーに着替えることにした。
「ぎゃーーっ!!なにしてんのよ!!」
今、明らかにヒロインがしてはいけない悲鳴が聞こえたが…
「着替えてんの。」
「いやそんなの見ればわかるわ!!何でここで着替えるの!?」
「なに言ってるんだよ、服は脱がなきゃ着替えられないだろ?はっ…ま、まさかお前…!!」
「ちゃんと着替えてるに決まってるでしょ!!…と、とにかく後ろを向いてるから…早く着替えて頂戴…。」
「ったくよ~…男の裸なんぞ別にどうってことも無いだろ。」
「あるわよ!!」
「はぁ、女心は複雑だな……ん?」
ははーん…よし、ここは一つ、アリスをからかうことにしようかな。
「なあアリス。」
「っ…な、何?(ま、また名前で…)」
つん。
何か、固い棒状の物が腰に触れた。
「!?!?(何!?なにこれ!?か、固くって…!?!?!?)」
アリスの顔が茹でた海老のように赤くなる。
「なぁ~~アリスぅ~~、許してくれよぉ~~、全裸になんかなった俺が悪かったからさぁ~~。」
くいっ、くいっ。
「わ、分かったわよ!!分かったから!!それよりこの固いのは…」
アリスの腰には、剣の柄が当てられていた。
「………」
「………てへっぶげらぁ!!」
殴られました、そして飛ばされました。
ふう、全裸でなければ即死だった…。
その後、何とか鎧に着替えた俺は、動きを一通り確認していた。
「あら、結構良さそうじゃない。」
「おでばぼぐだいげどば…(俺は良くないけどな…)」
着た感じは、まず軽かった。
普通の服とあまり変わらない感じなので、恐らく何かの魔法でも掛かっているのだろう。
音もあまり気にならないし、身体能力もちょっと上がってる気がする。
「クリスって、バカだけど本当に運が良いのね。」
「ばあな。(まあな。)」
アリスよ、あのときのポーションは、ここで使うべきだったのでは無かろうか。
特に特徴もない冑を被りながら、俺はそんなことを考えるのだった。
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