再会
初心者向けのダンジョンと言うこともあり、入り口周辺は綺麗に整備されている。
入り口である広い階段の周りには砂利が敷き詰められ、その両端を腕利きの番兵が監視しているのだ。
この体制はランクの高いダンジョンであればあるほど厳重なものとなり、特に世界最大級との呼び名が高い【バベルの塔】や【ソロモンの王窟】と言ったダンジョンともなると、要塞のような建造物で“蓋”をされているらしい。
ざり…と金属製の靴底が地面に敷かれた砂利に擦れる。
冑を華麗に脱ぎ、大きく息を吸い込むと、これまた深く息を吐き出した。
「ふう…シャバの空気は最高だぜ…」
「何をバカなことを言っているのかしら…」
おいおい、こちとら死にかけからの奇跡の生還だぜ?
もう少し気を使ってくれよ、さっきのは本当に悪かったから。
「よーし、それじゃあ町に戻ろう。早く葡萄酒が飲みたいぜ。」
「町についたら先にギルドへ向かうわよ。お酒は後にして。」
「おぅふ…」
彼女の怒りは大きいらしい。
○○○○○○
ギルドは、ダンジョンが現れてから結成された民営組織で、 世界中に出現したダンジョンを統括、管理するための民営組織、通称【形なき国】と呼ばれている。
国家の枠組みを越えて大々的に活動する組織で、財力は世界のどの国より強いとも言われている。
勿論、そんな力を民衆が持っているともなれば一部の人間達は快く思われておらず、結果色々な国から嫌われる事となった。
しかし、ギルドの抱える【冒険者】と呼ばれる者達は例外で、彼らはとどのつまりその国家が抱える『国民』だ。
よって、国は実績のある冒険者を『英雄』として祭り上げることで、いわゆるプロパガンダ、国民意識の統一に利用している。
つまり国は『ギルドが嫌いだけど、冒険者は利用価値があるから使う。』と言うことなのである。
「髑髏面の騎士…ですか…?」
「ええ、私の家名に賭けて、そして悔しくも犠牲となった冒険者達に誓って、嘘は言っていないわ。」
「い、いえ!ホーエンハイム様を疑うなど、とんでもないです!ただ…」
「ただ…?」
アリスのこめかみに血管の青い筋が浮かぶ。
前から思ってたんだけどさ、アリスって怒りっぽいよね?
「ええ、先月から、そう言った『黒い人影』や『暗がりに青白い髑髏が浮かんでいた』と言った報告が増えているのです。」
特に、深層の中~上級の冒険者達からの報告件数が増えているようで、強い魔物ばかりを狙っていることから冒険者全体の収入が減少傾向にあるらしい。
「そう言う事…別に私たちだけの問題じゃ無かったのね…」
どこか気に食わなさそうな顔でそう言うと、アリスは素焼きのコップに注がれた葡萄酒を口に含んだ。
酒はあまり得意では無いらしく、ちびちびと、葡萄の香りを楽しむように味わっている。
だが俺は、彼女の物より一回りほど大きなコップに注がれた葡萄酒を一気に喉へ流し込んだ。
「カァぁぁあああ~~~~ッ!!!やっぱ、このために生きてるよな~~~~ッ!!!」
久々の酒は胃に滲みる。
だが、このピリピリとした感覚が久しく、とても心地よいのだ。
「良くそんなに飲めるわね…」
「あー、最高。」
一通り楽しんだところで、俺はアリスに改めてお礼を言うことにした。
「とにかく…だ。ここまで色々手助けしてくれて、ありがとう。」
「な、何よ、改まって…」
「いや、ちゃんとお礼を言わなきゃと思ってだな…それに、ここでパーティーも解散だろ?次も会えるとは限らないんだからさ…」
「あっ、その事なんだk「クリス!?お前クリスか!?」
聞き覚えのある声だ。
振り向くと、随分と小汚い顔つきになった、親友のダリルが立っていた。
「あぁ、神様!!クリスだ!!クリスが生きてる!!どこ行ってたんだよおまえぇ~~!!」
ダリルは顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにして俺にすがり付いてきた。
よほど俺が気にかかっていたのだろうか。
「気にしてねぇさ。オメェだって、別にわざとじゃねぇんだろ?気にすんなって。」
あのクソ野郎、とか言っていたのはノーカンで。
「すまねぇ…本当にすまねぇ…。」
俺はダリルにジョッキを手渡した。
「飲め!!何時ものように、飲んで笑って、全部忘れりゃ万事OK。だろ?」
「あ、ああ!!そうだなクリス!!」
ダリルは、ジョッキの葡萄酒を一気に飲み下した。
こっちも久々の酒だったようで、少しえづいていたが、何だか嬉しそうな表情をしていた。
○○○○○○
「アリス、そう言えばさっき、何か言おうとしてたよな?」
よほど嬉しかったのか、ダリルはすっかり酔いつぶれて眠っていたので、さっき聞きそびれた事を聞いてみた。
「あ、えっと…その…ね?」
もじもじとするアリス。
ウーム…じれったいな…
「何だ?トイレか?」
「違うわよ!!…えっと、その…あなたさえ良ければ、こ、これからも、ぱ、パーティーを組んで、くれるかしら…?」
「おう、良いぜ。」
「そ、そうよね、ダメよね…ってえぇ!?良いの!?」
「当たり前だろ、何で断ると思ったんだ?」
「べ、別に断られるなんて思ってなかったし!!」
俺はそんな彼女を笑いながら、晩飯として頼んだ麦粥(オートミール)に手を着けた。
すると、俺の隣で眠りこけていたダリルが目を覚ます。
「おい…うぃっく…俺もぉ…付いてヒック、行くぜぇ~おらぁ~…。」
「オメェは無理しないで寝とけ。」
「おい~クリスぅ~俺たちの付き合いはそんなもんなのか~…ヒック。」
「分かった分かった。ついてきて良いから。だから寝とけって。」
酔っぱらいの相手は本当に大変だ…
「じゃあつまり、俺、コイツ、そんでアリスの…」
「…三人って事ね…。」
そんなこんなで、何故か不機嫌そうなアリスを含め、俺達三人は正式にパーティーを組むことになったのだった。
「ぐがー…すぴー…」
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