荷馬車でGO!!・一
俺達が冒険者稼業を始めて約一ヶ月、酒場にて。
「えー、新しいダンジョン?」
「そうよ!あなた達は結構強くなったわ!それはあなた達よりベテランな私が保証する!!」
机を叩き、身を乗り出してくるアリス。
「だから、そろそろネズミはいいんじゃない…!?」
「あ、そう…」
鬼気迫る表情だ。
「別に俺は構わないぜ?なあクリス。」
「でしょでしょ!?て言うかいい加減違う魔物と戦いたいわ!!物足りないわ!!」
俺に合わせて戦っていてくれていたため、そろそろフラストレーションも限界に達していたようだ。
思えば、最近彼女は半ば作業のように、死んだ魚の目でネズミを殴っていたのを思い出す。
「まあ、いいんじゃないか?金はたっぷり稼げたし。装備のメンテが終わったら、必要なものを買って、そんで違う町にでも行くか。」
「おっ、良いねぇ!」
「やったぁ!!待ってろドラゴン!!よっしゃー!!」
「お前は何と戦うつもりなんだ…」
そうと決まればぐずぐずしては居られない。
素焼きのコップに注がれた、温い白湯を胃に流し込んだ。
「よし、市場で御者を雇うか。」
基本的に、隣町までの定期馬車と言うものは出ているのだが、それでは結局ダンジョン自体は同じになってしまうのだ。
乗り継ぎも面倒くさいので、通常は市場などで個別に御者を雇い、その足で別なダンジョンのある町へ行くことになる。
「おい見ろよ、ぴかぴかだぜ。」
使い込み、少々傷が目立つようになっては来たが、魔法の掛かっている品、と言うこともあるのかこの鎧はかなり頑丈だ。
ダンジョンから時おり発見される、これらの装備品を総称して『マジックアイテム』と我々は呼んでいる。
「クリスは本当に運が良いよな~。」
「何でさ。」
「だってよ、マジックアイテムなんか、普通はもっと難易度の高いダンジョンから取れるもんだろ?」
「そうなのか?」
「ええ。普通はあんなに難易度の低いダンジョンからドロップすることは稀よ。過去に前例が無い訳じゃないけど…大抵は外ればかりだし。」
「ふーん…まあ、役には立ってくれてる訳だからな…一応名前も付けてるんだ。」
「名前?防具に?」
「おう、防具は相棒みたいなもんだからな。親しみを込めてカルロスって呼んでるぜ。」
「うわぁ…クリス…お前…。」
「何だよ…。」
何だ?防具に愛情を注いで何が悪い。
そうこうして歩いていると、すぐそこに馬車停が見えてきた。
この町では一番大きな場所で、上級貴族と王族以外の、主に商人や市民、たまに下級の貴族が利用する共同馬車停だ。
「おっ!お客様!もしかして冒険者の方ですか?」
「ん?ああ。そうですが。」
「ほー!!それは大変宜しいことです!!」
恰幅の良い、いかにも商人と言った風体の男が俺達三人をテーブル席に案内する。
「はい!!実は私、ただ今四つ山を越えた所にある、大きな町へ向かう前でして!道中に賊にでも襲われたらひとたまりもありません…そこで!」
「俺達に護衛を頼む…と。」
「はいっ!道中のお食事、寝所は私どもの方でご用意させていただきます!」
「ああ…そこなら、丁度俺たちも行く予定だった町がありますね。」
「おお…それなら正に一石二鳥、いや三鳥ですな!!」
「はは、お上手で…」
な、なんか勢いで押しきられた感じだけど…こっちに不利益がある訳じゃ…無いよね?
「「じーっ…」」
「な、何だよ…」
「いやぁ別に?ただ?クリスには商才がないなってね。」
「ホント、クリスったら押しに弱いのね。」
「お、お前ら…」
「さあ、それでは出発しましょう!」
と、商人の男に連れられ、俺達三人は荷馬車へと乗り込むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます