あ、あいつは…!!
「あー…昨日に引き続き完全に寝不足だわ…」
そう俺の傍らで、異臭の漂う小鍋をかき混ぜる少女。
目の下に濃い隈を作っており、どうやら相当な寝不足のようだ。
「一体どうしたんだ?何か眠れない理由でもあったのか?干し肉食べる?」
「ええ…頂くわ…」
かく言う俺は、昨日はぐっすり快眠だったため絶好調である。
干し肉をかじりながら、俺は寝床の撤去をしていた。
アリスがあんな調子なので、彼女が眠気覚ましの薬を調合している間、俺が片付けをしているのだ。
「はぁ…出来たわ…」
“形容しがたきもの”を冷ましてコップに移し、それを一息に飲み込んだ。
見た目に違わずやはり不味いらしく、かなり辛そうな面持ちで、口直しなのか干し肉を頬張っていた。
「…さ、出発しましょう…。」
「な、なあ、少し休んだ方が良いんじゃないか?」
「元はと言えば誰が……まあ良いわ…私は大丈夫だから、早く行きましょう?」
薬が早速効いてきたのか、先程よりは顔色が良さそうだ。
「そうか…それなら良いんだ。」
「ええ、薬も効いてきたみたいだし、これなら大丈夫ね。」
小鍋とコップに残った液体をぼろ布で拭き取ると、女の子が背負うには少々大きめのバッグに引っ掛けた。
「よし、行けるわ。」
俺も彼女に習ってバッグを背負う。
お互いに顔を合わせると、【ダンジョン入り口方面】と書いてある看板に向かって歩きだした。
○○○○○○
見覚えのある、薄暗い路地を真っ直ぐに進む二人。
コツコツと、ブーツの踵が地面を突く音だけが反響する。
「…やっぱり変。」
「なにがだ?」
そう言うと、彼女は呆れ顔になった。
「なにがって…この人の少なさに決まってるじゃない…。さっきから誰とも会ってないのに、気が付かないの?」
「え、良いじゃん、楽だし。」
「はぁ~~っ!!」
アリスは頭を抱え、大きく溜め息を突いた。
すると、彼女は突然バッグの中から何か…羅針盤めいたものを取り出した。
「そりゃ何だ?」
「生物探知機、よ。周りに生きてるものが居るかどうか確認するための道具。」
「??」
良くわからないが…彼女の事なので、きっと便利な道具なのだろう。
アリスはそれの上に手を翳し、魔力を注ぎ始めた。
羅針盤の端に取り付けられた小さな宝石が青く輝く。
「---ビンゴ。」
「何がってどわっ!?」
アリスは俺の手を掴み、どこかへ走り出す。
暫く走ると、アリスは突然ブレーキを掛けたため、俺は無様にも転んでしまった。
「いててて…」
ぶつけた肘を擦る。
「あぶね………」
「うそ、何でここに…」
後ろを振り向こうとするが、あり得ないほどの悪寒に、俺は動くことが出来なくなってしまった。
「(な、何だ…?後ろに何がいる?ま、まるで背中に氷柱を突き立てられたような気分だ…!!)」
「クリス…!!あそこの陰に隠れるわよ…!!」
「あ、ああ。」
力の抜けた膝に活を入れ、俺は洞窟の壁に体を張り付けた。
陰からそっと中を見る。
「!!」
ーーーあ、あれは…
長大な蛇の体、鋭い牙、ここからだと見ることはできないが、恐らくその双眸は黄金色に輝いているであろう、強大な化け物がそこには居た。
「ば、バジリスク…!?」
俺の囁き声が、薄暗い路地に消えていく。
アリスの頬には、大粒の汗が伝っていた。
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