こちら中層、大樹前の野営地にて。

「中層も真ん中辺りまで来ると、結構人が増えてきたな…」

「特にここは中層に唯一ある安全地帯だから…でも、何時もより少ない気がするわ。」

 

うーん、こんなところ通ったかな…

 

「ここは、このダンジョンの中でも一番大きなセーフゾーンなのよ?ほら、あっちの方とか、小さいけど出店もあるでしょ?」

「あ、本当だ…すげぇ…。」

「基本的にここのテントは勝手に借りて大丈夫よ。ただ一人で過ごすのはおすすめ出来ないわね…」

「え?何でさ。」

「だってそれは…」


彼女がそう言いかけた瞬間、柄の悪そうな二人組がこちらめがけてやって来た。

   

「お~い、そこのキレーな姉ちゃん!!俺達と遊ばなーい?」

「さっすが兄貴、この女すんげぇ上玉ですよ!!」 

 

うわぁ…出たよ、同じ男としてあんまり好きになれないタイプのやつが。


「おいおい、無視は悲しいぜぇ姉ちゃん。」


大柄な男がアリスの右腕に掴み掛かる。

俺の事は完全に眼中に無いようだが、見逃すわけにもいかないので注意しようとした。

 

したのだが……

 

「このアマ…聞いてんの…」

 

アリスは右腕でグーを作ると、大男の顎先を掠めるようなパンチをかました。

途端に、男は糸の切れた人形のように膝から崩れ落ちるのだった。

  

「「!?」」


唖然とする一同。 

そんな中、服を払いながらアリスは子分の小男に近付いていく。

 

「…で、何か用かしら?」

「…ひ、ひゃぁぁぁあ!?」

 

小男は親分の男を掴み、そのまま凄い勢いで逃げていった。 


「…お強いんですね。」

「少なくともあなたよりはね。」

「ぐはっ!?」

 

分かりきっていた事でもはっきり言われると傷付いちゃうぜ?


胸を押さえて膝を突いた。

 

「あっ…ご、ごめんなさい…酷いことを言うつもりは無かったんだけど…」

「いや…良いんだ…俺が弱いのがいけないんだよ…」


ワタワタと慌てて俺を励ましてくれる彼女。

悪気は無かったのだろうから、俺もあまり気にしない事にした。

 

「それよりさ、アリス。」

「ーーー!…い、今、名前で…う、ううん、何でもないわ。」

「ふーん…まぁ良いや。このペースだと、あとどれくらいで地上に出るんだ?」

「へ?あ…うーん、そうね…今日はここで一泊するとして…早起きすれば、大体明日の昼頃には着くと思うわ。」

 

おお、結構早いな。

まあ親友(ダリル)も心配してるかも知れないし、早く出たいところだ。

 

「よし、じゃあ適当にテントでも借りるか。」

「…っ…そ、そうね。」

「ん?どうかしたか?」

「いえ…何でもないわ。(く、クリスったら…わ、私と一緒に寝るつもりなのかしら…。)」

 

アリスの考えはもっともなものではあったが…残念と言うかなんと言うか、それはただの杞憂で終わるだろう。

 

何故なら、クリスの好みはもっとグラマラスな女性であるため、アリスには最初から欠片も邪な感情を抱いていなかったのである。 


と言うか、出会ったその日から一緒に寝ているのに何もなかった訳で、今さら場所が変わった程度で彼がどうこうなるはずも無いだろう。

 

「あ、こことか良いんじゃないか。」

「そ、そうね。」

 

クリスは少々古さが目立つテントに目を着けたようで、鞣(なめ)したネズミ皮をベッド代わりにして簡単な寝床を二人分拵(こしら)えると、ごろりと寝転がった。


「えっ?(二人ぶんの寝所?)」

「はー、疲れた…あー、出店見るなら一人で行って来て頂戴ね。俺眠いから寝るわ。」

「えっ」


するとすぐに寝息を立て始めるクリス。

その眠りの深さから見るに、相当に疲れていたらしい。


「…ああ…そう…。(…出店…行こうかな。)」

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る