と、トモ…何だって?
「どわぁぁぁあ!?」
悪夢を見た。
石にされた俺は、そのままあの化物に砕かれると言う夢だ。
「目が覚めた?」
トーンの高い声に気が付き、周りを見渡す。
真横に女の子が座っていた。
年の瀬は20手前ほど。
髪は艶やかな黒のボブカット、顔立ちは幼く、またローブのような服の上からでもわかるほどに未成熟な体つきだ。
薬草か何かを煎じているらしい。
「うっ…臭…!?」
形容し難いにおいも辺りに漂っており、俺は少しえづいた。
「起きたみたいね。」
「あ、ああ。」
「自己紹介をしましょう。私はアリス…アリス=ホーエンハイム。しがない錬金術師よ。」
この悪臭の元凶と思(おぼ)しきすり鉢を地面に置き、俺に自己紹介をする少女(アリス)。
ホーエンハイム…聞いたような名前だ。
「ん?ホーエンハイムって言えば…あの、国一番の錬金術師とか言う…」
「あー、そんな風にも言われてるわね…」
心底うんざりしたような顔でため息を突く。
どうやらあまり触れてほしくない話題のようだ。
「しかし、そのホーエンハイムがこんなに若いなんてな…」
「…年齢は関係無いでしょ。それに、助けたお礼も聞いてないし、あなたの名前も聞いてないんだけど。」
良い年した大人が指摘されてたら世話がないが…それにしても態度が悪い女の子だ。
俺は少女に向き合うと、一応コートの襟を正した。
「俺の名前はクリス、農民の出だから名字は無い。助けてくれてありがとな。」
素直に頭を下げると、アリスは少々驚いたような顔になった。
あまり言われ慣れて無いのか、それとも俺が素直に頭を下げるタマでは無いと思ったのか。
「ふ、ふん!!クリスって、まるで女の子の名前みたいじゃない!!それにアリスとクリスって何だか響きも似てるし運命的ねっ!!」
誉めてるのか貶(けな)してるのかは分からないが、この女が悪いやつじゃ無さそうだってのは良くわかった。
「くくっ…」
「な、何よ。」
「いや、悪いやつじゃ無さそうだと思ってな…。世話になっちまって悪かった。何もお礼なんて出来ないんだが…あ、そうだ。このペンダント位なら金になるかも知れねぇ。戦士だった親父の形見だが…聖銀(ミスリル)で出来てるらしいからな。高く売れるんじゃないか?」
「え!?そんなの貰えないわよ!!」
「はは…そうだよな…こんなの貰っても仕方ないよな……」
「ち、ちがっ…」
ごねる彼女に無理矢理ペンダントを押し付ける。
男に慣れていないのか、はたまた人付き合いが苦手なのか、彼女は顔を真っ赤にし、恐る恐る受け取った。
「わ、わかったわよ…ちゃ、ちゃんと貰ってあげる!!返してって言っても返さないからね!!」
「(やっべえ、コイツ超おもしれー)」
正直過去の威光に菅って生きていた惨めな親父になど未練は無かったし、ミスリルだと言ってはいたが本物かどうかも疑わしい品だ。
と、こちらの一挙一動でコロコロとサイコロのように変わるアリスの表情を楽しんでいると、不意に彼女は口を開いた。
「あの、別に、命を救ったからとか、そ、そういう訳じゃないけど…良かったら、わ、私と…私とゴニョゴニョ…」
「え、何だって?」
「だ、だからトモ…トモダチ…」
「聞こえんなぁ?」
「友達になれっていってんのよバカーーーーっ!!」
遊んでいたら拳が飛んできた。
彼女の鋭い突きは俺の鳩尾にクリーンヒット。
「か…は、ハート…ブレイク…」
ぽふっ。
俺はそのまま吸い込まれるように彼女の胸へ。
薬草と金属、そして女の子の甘い香りが俺を優しく出迎えた。
「きゃっ…!ちょ、そんなに痛かったの!?」
「うーん、柔らかくない…」
「死ね!!」
「ギャアアアアァァァァァア!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます