神の眠る街

パーティシェフ、クリスの朝は早い。

 

太陽が昇り始めるのと同時に目覚め、釜戸に火を入れて今日の朝食である残り物のスープを温めるのだ。

温かくなったスープの鍋を火から上げると、今度はフライパンを火にかける。

油をしき、自家製の塩分控え目干し肉とスライスしたじゃがいもを炒める。

 

彼は言う。

 

「じゃがいもはとても栄養があるんだ、ある国では、小麦とかが育たない痩せた土地でしっかり育つから非常食として栽培されているぞ。主食としても、これ単体でもご飯になる優秀な野菜でもあるんだ。」

 

彼は、良くじゃがいもを食べるそうだ。

なるほど、健康の事もしっかり考えていらっしゃるんですね。

 

最近、ダンジョンの中で栄養失調に陥る冒険者達も居ることについて、どう思っているのか聞いてみることにした。


「やっぱり、食事って言うのは、俺たちの体を作る重要な要素だろ?それを疎かにしちゃいけないし、何より俺達冒険者は体が資本だから、飯はしっかり食うべきだ。じゃがいも食えよ、じゃがいも。」


なるほど。貴重なご意見、ありがとうございます。


「ところで。」


はい?


「何でそんな、変なしゃべり方なんだ?」

「良いじゃない。最近若者の間で流行りの遊びらしいわよ?」

「ふーん、変なの。」


最近の若者の流行りは良く分からん…


○○○○○○


「おーい、町が見えてきたぞ~。」

「お!!でっけぇ町だなぁ!!俺らの住んでた所より何倍もでかく見えるぜ!!」


城壁に囲まれた町、世界有数の宗教都市、またの名を『神々の寝所マアンナ』と呼ぶ。

この世界の二大宗教である【地母神教】と【天神教】の聖地とされる大きな町だ。

かつては宗教戦争なども起きたことがあったが、現在では町全体がダンジョンの【蓋】になってしまっているため、予断を許さない状況の中信心深い人々は生活をしている。


「ここのダンジョンは【セトの墓所】。アンデッド系の魔物がわんさか居る、辛気臭い場所よ。こないだまで居たところよりは難易度が上がっているけど、気を付けてさえ居ればまず死ぬようなことは無いわ。」

「ふーむ、食える魔物は居ないのか?」

「肉が有るのはゴブリン位だけど…そうね、そう言えば、ここは野草が良く生えていたと思うわ。」

「野草?おりゃ野菜はあんまり好きじゃ無いんだけど…」

「文句を言うな。」


馬車を係留し、町に入る俺達。

取り敢えず盗賊達の居る場所を知らせねば…。


「……はい、承りました。盗賊の討伐、ご苦労様です。そちらで回収された食糧品と、銀貨500枚については、今回の報酬として半分が支払われることになりました。なお、荷馬車等については、ギルド法に基づきあなた方の私物となります。改めて、お疲れ様でした。」


銀貨250枚…贅沢さえしなければ、三人で半年と少しは暮らしていける金額だ。

しかも、移動に便利な馬車付き。

アリスとダリルは小さくガッツポーズを作った。


「は、半分は持っていかれたけれど…儲けたわね…!!」

「あ、ああ。銀貨250枚なんて、中々お目にかかれない金額だぜ…!!」

「馬車の維持費を考えると…」


俺達の懐は、今とても暖かい。 

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