第一輪ー⑥



「この度はご足労いただきまして、誠にありがとうございます。」

と上司が遺族の一人である、男性に向かって、丁寧にお辞儀をして言った。

「いえ。重要なことですから。」

と書類を読んだ男性が、そう答えた。

「今回は遺族の方にお立会いいただきまして、花の種の掘り返しを行います。

もしも本物の種であれば、少しは変化が見られるはずなのです。こちらには、花の種の成長速度のデータがございます。こちらを参照しながら、判別します。」

「よろしくお願いします。こちらも、もしも盗まれたとなると顔向け出来ませんので。」

と厳しい顔をして、男性が答えた。



花壇の前に皆が集まった。

男性、上司、今回、回収に言った二人組。

司祭は残念ながら、別の用事で居なかった。

その他にも疑いをかけられている者は多く居る。

職員たちや管理人たちは、疑いをかけられて不満を漏らす者は一人も居なかった。

皆、花の種が盗まれることの重要性を十分理解しているからだ。



泥棒が花の種を奪うのには、理由がある。

それは、花の種が不老不死の薬の原料になると囁かれているからだ。

これは全くのデタラメで、国からもおふれが出るくらい、広まっていることだが、

一部の人間たちはこの噂を信じている。

金持ちたちはこぞって不老不死を望み、その為金持ちが泥棒を雇ったりしている。

もしくは手っ取り早く殺人を犯して、花の種を盗もうとする人間も居る。

または、殺したい人は居るが、花の種は要らないということで、

裏取引を行う者も居る。


不老不死、人の望みの一つ。

老いることもなく、死ぬこともない。

死を恐れる者からしたら、喉から手が出るほど欲しいモノかもしれない。

もしくは、頂点に立ちたい者からしたら、望んでいるモノかもしれない。

どんな理由があるにせよ、不老不死を望む者が必ず居ることは確かだった。


しかし、この国の国王でさえ、花の種が不老不死の原料にはなりえないと

公言しているにもかかわらず、それを無視する者が後を絶たなかった。


そのことに、国王は心を痛めたりもしていた。



管理人が丁寧に埋葬された土を、種が植わっている深さまで掘る。

「出てきました。」

そう言って管理人は、キレイなシルクのハンカチで種を包み、

皆の前に見えるように差し出した。


ハンカチの中に鎮座した種は、全く発芽していなかった。

根っこでさえも出ていなかった。


「これは明らかにオカシイ。」

と上司も管理人もいい、すぐさま事務室の種選別機にかけられることになった。

本物の花の種ならば、反応が出る。

それは生体反応のようなもので、淡く光る。

しかし、今回取り出した種は、全く光らなかった。

全くの偽物だった。


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