第二輪ー⑥


「芽が出た時、何をして欲しいと?」


女性に詰め寄って、栗色の管理人が女性の肩に手をかけて聞いた。

その勢いに女性は一瞬たじろいだ。が、ぽつりと零した。


「……これを傍に置いて欲しいと……」


そう言って女性は鞄の中から箱を取り出し、箱の中を開けた。

箱の中には、一つの種が入っていた。

種を見て管理人の一人が驚いた声を出して、


「……それは誰の種ですか?」

「誰の種でもありません。あの人の作品です」

「作品……?」

「あの人は彫刻家でした。色んな依頼がありました。亡くなった人の銅像を望む人も少なくありませんでした。……その内大切な人が亡くなった悲しみに打ちひしがれて亡霊の様になっている人に、種の彫刻を作るようになったのです」


管理人達は顔を見合わせた。


「種を借りても?」

「どうぞ。検査をしても本物でないことはすぐに分かります。いくらでも検査してください。」


女性は箱を管理人に渡した。

管理人は種を指で持ち、その精巧さに驚きを隠せなかった。


「あの人もはじめは種を作ることに罪悪感を感じていました。ですが、その種を見て元気になり、挙句の果てにはその種を飲み込んで嬉しそうにしている人をみて、何も言えなくなりました。」

「種を作り出すことは……グレーゾーンですね。罪にはまだ問われない」


背の高い管理人が、目を伏せる。


「初めの依頼人もそこに目をつけました。作ったとしても君は罪に問われないと。あの人は良心の呵責に潰されるように、作り続けた。作ることで良心は苦しみ、作ることで罪の意識は薄れていった」

「これは誰の種なんですか?」

「あの人の最愛の娘の種です。小さいころに亡くなった」

「娘……」

「死んだ後、同じ花壇に種植えまいそうされることはない。でも少しでも近くに居ることを感じたいと私にこれを託しました。芽が出たらと言ったのは、自分は見えない罪で芽は出ないかもしれないと思っていたのかもしれません」

「……でも花壇に手をかければ、あなたは罪に問われますよ?それは分かっていたのですか?」


栗色の管理人が優しくそう聞くと、


「それでもそれがあの人の最後の望みなら、私は叶えます。たとえ私は罪に問われたとしても。あの人の最愛の娘を奪ったのは、私なのですから。すでに罪は背負っています」


女性は凛とした声でそう答えた。


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