第一輪ー④



「ただ今戻りました。」

黒いシルクハットを外して、2人の人物が、花園の職員館に入って来た。

「おう。ご苦労だったな。」

上官である男性が二人を出迎える。

「で、はどうだった?」

と上司が聞くと、

「今回は素人だったんですかね?正攻法の弱弱でしたよ。」

と一人が答え、

「少しは自分たちの行いを顧みたんですかね?」

と一人が考えて言った。

それに対して上司は、

「まあ、今回は手強い相手じゃなかったから良かったかもしれねえが……、気は抜くなよ?」

と一応くぎを刺した。

その上司の言葉に二人ともピシッと姿勢を正して、

『ハッ!』

と応えた。



「こちらが今回の種です。書類はこちらに。」

と保管庫の受付にて、一人が種の入った箱を渡す。

「はいはい。確かに照合も一致。あとは遺族の方から日時の連絡待ちね。」

いつもご苦労様、と受付の中年女性はにこやかに伝えた。

それに対して、二人とも、

使命しごとですから。」

と答えて、去って行った。

箱にラベルを入れて、保管庫に厳重に納めながら、

「今日は入るのかしらねえ。」

と遠くの方をぼんやりと眺めて呟いた。

それに対して、同じ場所で働く同じ年頃の男性が、

「神様じゃないんだから、それについては分からんよ。どうしたんだい?」

と少し乾いた笑いをしながら聞くと、

「あの子たち、『使命しごとだから』って言って、過酷な労働をずっとしているのよ?」

と憂いた表情で答える。

それに対して、

「俺たちも昔は、その現場で働いていたじゃないか。何を今更。」

と男性がため息を吐く。

「それでも眉一つ動かさずに、『使命しごと』って言ってしまうあの子たちが、気になってしまうのよ。まるで、国に操り人形にされているんじゃないかって。」

と女性も目を伏し目がちに、ため息交じりに吐き出した。

「それはねえよ。皆どこかで、息抜きなりこのバカげた法則に疑問を持っているさ。見える場所では、従順なお犬様を演じているんだよ。」

と犬のように手をグーの形にして、ワオーンと場を和ませるように鳴き真似をしてみせた。

それを見た女性は、

「それもそうね。」

と言って、フフフと笑った。




「連絡が着たわ。種植えは明日の15時よ。」

「その前後の警備を特に厳重に。」

と職員同士が話し合っていた。

「司祭様に連絡を。」

「参列者の人数は?」

「場所の地図用意。」

「人数、配置確認しておけ。」

と次々と連絡事項が、館の中を駆け巡った。

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