第一輪ー⑩
「どうして花の種を盗んだんだ?管理人でもあるお前が。」
上司が目の前の花の種泥棒を前にして、そう切り出した。
場所は、花園の館、職員が常駐している部屋の応接室という名の拷問室。
部屋の奥、扉を背にして泥棒である管理人が、目の前には上司と回収をした管理人2名が対面していた。
「……だったから。」
犯人である管理人がポツリと呟いた。
3人がジッと口を挟まずに待っていると、
「お金が……欲しくて……」
ともう一度、口にした。
「どうしてだ?管理人は、普通の人よりも稼ぎはいいはずだ。こんなものに手を出さなくてもいいくらいには。」
と上司が聞く。
「どうしても、まとまったお金が必要だったんです。」
とポツリポツリと犯人は話し出した。
花の種には、膨大な報酬金がかけられている。
お金に困った人間が、それ欲しさに盗みを働いたり、
身内の花の種をそいつらに渡すことも珍しくない。
また、手っ取り早く花の種を手に入れる為に、他人を殺してしまう人間も居る。
それくらい「花の種」には、貴重性が込められている。
元は同じ人間。
それを、自分たちの私利私欲の為に利用しようとする輩は後を絶たない。
倫理に反すると何度呼びかけても、無視をする人間は必ず居る。
それが、この世界の現状だった。
「何はともあれ、犯人が身内からというのには驚いたけれど、見つかって良かったね。」
「奴らの手に渡ってもいなかったしな。」
「今回は、不老不死というよりも、黒魔術に使う為って話だったね。」
「生き返らせる為……ね。」
管理人同士が、花園の花壇巡回中に話し合っていた。
「いつの間に、故人の家族に入れ込んでいたんだか。」
一人がため息を吐く。
「確かに個人的に感情移入しない人間を、管理人にしている根本的理由が、揺らぐな。」
「というか、一番掟を守らなければならない俺たちが、犯しちゃ示しがつかないだろう?」
とそれぞれに口を尖らせた。
「もっとこれから、持ち物検査とか厳しくなるかなあ。」
「ウゲエ。今でも勘弁してって感じなのに。これ以上かよ?」
「盗んだ経緯も、謎だったしなあ。」
「あいつ、今回の参列に不参加だっただろう?」
「登録の時に、入れ替えたんだってさ。」
と今回捕まった犯人、中年の女性の職員のことを話し出す。
彼女はポツリポツリと自供をした。
その時に口にした言葉、
「『今の管理人制度、花園の在り方に問題提起をしたい』って……、何が不満だったんだろう?」
と一人が首を傾げた。
「さあ?その人の中の肥大妄想が突っ走っただけかもよ?」
と誰かが答える。
「何はともあれ、無事に花の種は返ってきて、今じゃ立派に芽も出たし。」
と今回の個人の花壇の中を見つめて、一人が言う。
「どんな花が咲くか楽しみだよな。」
と別の一人もそう答えた。
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