第一輪ー⑤
遺族たちが花園に集まった。
「それでは、これより
そう司祭が言い、回収した故人の種が入った箱を抱えて、式が厳かに執り行われた。
まず花園内にある花壇に、小さな穴を掘る。
司祭が箱の中から種を取り出し、代表者に手渡す。
今回は子供である男性がその役割を担っていた。
穴の中に種を入れ、司祭がその上に土を被せる。
水を遺族が順番に1滴ずつ落としていって、式が終了する。
式自体は簡単なものだが、この式の間にも種を奪おうと、泥棒が襲撃に来る。
その襲撃方法は様々で、管理人たちはこの式の間がもっとも緊張を強いられている。
「ありがとうございました。」
と遺族の人たちが口々に管理人たちにお礼を言っていく。
「無事に種植えが済んで良かったです。」
と司祭が応えた。
「どうぞ後の管理は、私共にお任せ下さい。」
と司祭と共に居た、今回種を回収しに来た二人組が、丁寧にお辞儀をした。
「よろしくお願いします。」
と遺族の人たちも頭を下げた。
「では書類のお渡しなどがございますので、こちらに。」
と泥棒の襲撃の心配も杞憂に終わり、無事にコトは済んだ。
離れていく遺族を見ながら、
「今回は何事も無く良かったですね。」
と一人が言うと、
「まだ、芽が出るまでも油断出来ないけれどな。第一関門は突破というところか?」
と上司の一人が応えた。
「大体回収時が危険度3、式の最中が危険度5、芽が出るまでがもっとも危険は少ないじゃないですか。」
と司祭が言うと、
「その油断をついてくる場合もありますからね。」
と渋顔の上司が苦々しく吐いた。
それに対して、司祭は、
「やれやれ。心配性の上司ですねえ。」
と穏やかに笑った。
花の種が芽を出すまでは、故人によって様々である。
今までで最短は5日と最長は19日間と長かった。
これからも記録は生まれるかもしれないし、破られないかもしれない。
今回の花の種は、植えてから14日経っても、芽が出てこなかった。
その間、泥棒の襲撃もトンと音沙汰がない。
その間にも新しい花の種は生まれ、式は行われた。
後から植えた種の方が先に芽を出すくらいに。
「いくらなんでも、長すぎじゃないですか?」
管理人の一人がそう報告する。
「いや、しかし……。最長の記録もあることだしなあ。」
と一人の職員が零す。
「でも、平均日数は超えていますよね。」
と胸騒ぎがするという理由で、上司に報告をしに来た一人が、尚も食い下がった。
「掘り起こしましょうよ。」
と一人が言うと、
「それは遺族の同意、同席がないと出来ない問題だ。」
と上司が言い、
「ならば、遺族の方にご説明をして、同席していただきましょう。」
ともう一人も声を荒げた。
その様子に上司は、
「お前は……、まさか司祭様を疑っているんじゃないだろうな?」
とため息とともに吐く。
その問いに対して、
「司祭様だけではありません。」
と一人はキッパリと言う。
「保管していた職員、元々回収しに来た管理人、関わった全ての人を疑っています。」
と続けて言った。
「お前、それはお前ら自身も疑っているということか?」
と上司が困惑の表情で伝えると、
「その通りです。」
と回収しに行った二人組の内の一人が、首を縦に振った。
その覚悟に上司は、
「分かった。急いで書類制作、遺族へ連絡しろ。第一優先で承認をおろして貰うように掛けあってやる。」
と覚悟を決めた鋭い目を向けて言った。
「ありがとうございます!」
ともう一人は頭を下げた。
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