漂流する中央分離帯


 市の環状幹線道路の車線を真ん中で別つ中央分離帯はしばしば漂流することがあった。それに応じるかたちで環状幹線道路は蛇行を余儀なくされ、その都度実にダイナミックな曲線を描いた。大胆な捻じれ故に数字の8の字形になることさえあった。


 大変なのは朝の通勤ラッシュと夕方の帰宅時間帯で、こうも道の形状が変わっていてはいつまで経っても会社にたどり着けないという市民からの苦情は後を絶たなかった。それはまさに生活に直結するインフラの問題なのだった。これに対し行政側の説明は、あくまで漂流しているのは中央分離帯であり幹線道路はその動きに合わせている結果であるというものであった。


 しかし中央分離帯を漂流させているのは他でもない氾濫するほどの量の自動車の流れの方であり、車線に挟まれた中央分離帯は渋滞に圧迫されて押し流されているに過ぎない。


 この問題の解決に向け、市は近く車の流れそのものを矯正する環状堤防を建設する計画である。


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