蔵町
また、夢の話である――。
私は少女を追っていた。
石畳の道路に城下町らしい日本家屋の町並みが続く。古い町だ。その町は市内でも有数の歴史的建造物の保存地区であり、近年観光化に向けた取り組みが進められている地域でもあった。表通りこそ随分と現代的な整備が為されてきたようだが、少しでも裏道に入れば旧家の軒が
観光客の雑踏をよぎって私は細道に飛び込んだ。先には大小の土蔵が並んでいた。道なりに漆喰造りの白壁が堂々としている。私は歩みを進める。その道に人通りはなく、しばらく歩いても誰かと擦れ違うことは皆無であった。目に入ってくるのは妻壁の白と瓦の黒。蔵の隣にも同じように蔵が並ぶ。その隣も同様であった。
蔵町だ。此処は蔵だけの町なのだ。色彩に乏しい光景に軽度の
蔵、蔵、蔵、蔵、蔵、蔵、蔵…………。どこまで行っても蔵ばかりだ。まるで無限に重ねられた白いカーテンを繰っているかのように錯覚された。少女は何処だろう。
ひらり。
視界の隅でスカートが翻ったような気がした。白のワンピース。
ひらり。
今度は確かに気配があった。
——其処だ!
私は振り返るも目線の先にはしんと蔵が並ぶのみであった。
そこで私は、ふと自分が現在立脚する地点が地図上の何処であるのかを意識の中から失していることに気づいた。私はどの道を辿って来たのか。どの道を通ればこの蔵の迷路から抜け出せるのか。通りの直ぐ向こう側からは観光客の喧騒がざわざわと感じ取れるのに、どうやったら元の表通りへ戻れるのかが分からない。
ひらり。
モノクロの蔵の陰に紛れて白い少女が舞う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます