決してたどり着けないのだ。


 その塔は市街地の中央部に建てられており、高い建造物に乏しい地方都市においてよく目を引いた。塔は市内なら大抵の場所から見つけることができた。


 白い塔だった。


 しかしそれは、明確に純白の塗装がされているというのではなかった。いつも塔全体が霧に包まれたように漠としていて、どこから見ても本当の色が判然としない。そういった意味での「白」であった。どこからでも見えるのにどこからもはっきりとは見えないのだ。なんともおかしな話であったが、市民たちはそれをそういうものとして受け入れていた。


 昼間、塔は風景に紛れるように白くぼやけていた。そして夜になるとあらためて自らの色を主張するかのように――闇の黒に染まるのを怖れるかのように、淡く微光を発して輝いた。塔がどういった仕組みになっているのかは誰も知らなかった。


 それどころか、塔が何のために建てられたのか、いつからそこにたっているのか、それすらも知る人はいなかった。誰に尋ねても曖昧な答えしか返ってこなかった。


 稀に疑問を持った物好きがそれなら自分が確かめてやろうと塔の本体へ乗り込もうと試みることもあったが、ことごとく失敗に終わった。目的を持った者が近づこうとすると、いつの間にか塔を通り過ぎてしまうのだった。


 なんのために建っているかも分からず、近づくこともできないようなものが何故そこにあり続けているのか。ある人が言うには、塔はこの街の象徴なのだという。塔は街そのものなのであり、私たち自身を表しているのだと。だからこれからも宝物のように大切にしていかなければならないのだとその人は語った。


 塔は今日も変わらずそこにたっている。


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