屋上遊園地のあの子
何度も繰り返し見る夢がある。
わたしはデパートの屋上に立っている。そこにはメリーゴーランドやミニSL、簡易な観覧車といった遊具が大小カラフルに並んでいて、たくさんの親子づれで賑わっている。
夢の中のわたしは小学校に入学するかしないかくらいの年齢で、白いワンピースに柔かいシューズを履き、自分も他の子たちと遊ぼうと駆けていく。振り返れば、はしゃぐわたしを見て両親が笑っている。そこではすべてがきらきら輝いて見えた。
その光景にわたしはよく覚えがあった。
わたしがまだ小さかった頃、家族でたびたびデパートに出かけた。そのときに毎回のようにつれて行ってもらっていたのが、その屋上遊園地だったのだ。
当時の記憶はひどく
しかし他の多くの夢がそうであるように、夢の中でのわたしの体験はとても断片的なものだった。
走る子供たち。アーケードゲーム。コイン式の望遠鏡。アニマルカー。犬の着ぐるみ。ソフトクリーム。自動販売機。花壇。赤い花。時計塔。防護柵。空に舞い上がるいろんな色の風船……。見えるもの全部が光の中にあった。
その断片的な輝きの中で、決まってわたしを見つめるものがあった。
それは夢の中のわたしと同じくらいの年齢の小さな男の子だった。男の子は他の子たちには混ざらずに、ただわたしだけを見つめていた。その男の子が出てくるとまわりのきらきらの感じがすうっと変質して、途端に何もかもが橙色に覆われる。
その男の子はいつも夕日を背にして立っていた。そのせいでわたしのいるところからは逆光になってしまって、顔や表情はよく見えないのだった。
わたしは男の子に近づこうとするのだけれど、そうすると何故か私の足はずんずんとあらぬ方向へ向かっていって、いつのまにかわたしは花壇の真ん中に立っている。わたしの腰あたりまである高さの赤い花が群れをなしてわたしを取り囲み、そうして名前も分からない花々に気を取られているあいだに視界も意識も分散していってしまって、ふと頭を上げたときにはもう彼を見失ってしまっているのだ。
気づくと、屋上にはわたしだけが立っていた。
はっとして見れば両親の姿もなく、
夢から醒めたわたしは、またあの子に声をかけられなかったなとぼんやり白い天井を眺める。
そこに至って思い出すのだ。
幼い頃にデパートの屋上遊園地につれて行ってもらった経験などわたしには一度もないと。
むかしはデパートや大型の商業施設に行くと必ずどこにも遊園地が備えられていたという話はわたしも知っている。でもそれはあくまでむかしの話で、わたしの子供時代にはそんなものはすっかり過去の記録の中だけにあった。
だいたい、地元の小さなデパートの屋上に遊園地なんて豪華な遊び場があるはずもなかった。
じゃあ、あの夢はなんだったのだろう――。
そんなことを考えているうちに意識が明瞭になってきて夢の内容もみるみる薄くなっていく。まだ眠い目をこすりながらわたしは体を起こす。
今日も、世界が始まる。
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