竜神牧場
市内東部。近年急速に宅地開発の進んだその地域には昔、然る酪農家が経営する牧場があった。その牧場では戦前の数年間、竜神が祀られていた時期がある。
始まりは昭和初期のある日、遠方から訪れた宗教家の残した託宣であった。その宗教家は牧場敷地内にある農業用水池に有り難い神が宿っていると告げた。しかもその神は白い竜の姿をしているのだという。正しくお祀りすれば多大な御利益をもたらすであろうと。
さて宗教家の言に従い神祠を建立してみるとどうだろう、それ以降、池からは絶えることなく滾々と水が湧き続け、その牧場のみならず周辺の田畑にも潤いを与えたのだという。
そんなことがあってからというもの、祠を竜神社として祀り上げ、毎年春と秋には一族総出で例祭を執り行った。やがて評判は評判を呼び、近辺の農家ばかりかわざわざ遠く離れた町からも参拝客が訪れるほどになっていった。
最初は五穀豊穣、商売繁盛を祈願するのみであったが、参拝客の中には健康を願う者も現れ始め、池の水に触れるとどんな病もたちどころに癒えるとまで言われた。実際、竜神の御利益によって目が見えるようになった、治らないと言われていた足の怪我が全快したなどの証言が当時の新聞記事に残っている。
しかし戦後の農地改革の混乱でそれもなくなり、祠は取り壊され、池もいつしか埋め立てられてしまった。祠があった正確な位置も今となっては少しも分からない。
現在、その牧場があった辺りには大きな高速道路が架かっている。
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