想い出のテーマパーク


 ねえ。きみとぼくが初めてデートで行ったテーマパークのこと、覚えてる?


 うん。あのちょっと外れにある、あのテーマパーク。

 そうそう、市の中央駅前からバスで30分くらいのところにあって……。


 え? あの時は片道で1時間はかかったって? 

 うーん、そうだったかなあ……。

 ああ、いや、そう言われるとそうだったような……。

 いやいや、そんなつもりじゃないよ! 


 ……うん、あの辺りもしばらく行ってないからなあ。

 今どうなってるのかな。

 また今度にドライブにでも行ってみようか。

 え、なに? 

 ……ああ、そうだね。

 その時は、きっと。


 思えばあの頃はあのテーマパークもまだ出来たばかりで……。

 え? それもちがう?

 入場した時に開園25周年の横断幕が出ていた……? 


 うーん……。

 さすがのぼくでもそれは間違えないと思うんだけど……。

 え。ぼくが何かと勘違いしているって……?

 そんなはずは……。


 あっ。


 そ、そうだ! 

 ほら、きみが今してるその腕時計、ちょうどそのテーマパークに行った時にぼくがきみにプレゼントしたやつだろう? 

 ……うん。

 ははっ。それは言わないでくれよ。


 うん……。

 うん。ああそうだったね。

 あれはパークに入ってすぐの花壇の前で――うん、そうだ。あの時、花壇にはチューリップがいっぱいに咲いていたよね。白と黄色のチューリップの花が一面に……。


 え?

 白い花なんてなかったって?

 全部赤い花だった……? 

 チューリップでなくて……?


 ああ――――。

 いや、うん。

 実を言うと、そこはぼくもちょっと記憶が曖昧だな。

 うん。ごめん。きみの言う通りだったかもしれない。

 ああいや、そんなことはないんだ。

 きみが悪いんじゃない。うん、ごめん。


 でも、あの頃はぼくもきみもお互い初々しかったよなあ……。

 付き合い始めてそんなに経ってなくて。

 そうそう。あの日、普段は仏頂面のきみがお化け屋敷であんなに怖がるとは思わなかったよ。ぼくの服の袖をぎゅっとつかんで離さなくてさ。


 ……ははっ、ごめんごめん! 痛いって! あははっ。

 だけどあのお化け屋敷のアトラクション、今から見てもよく出来てたよな。

 きみが怖がるのも無理はないよ、うん。


 え? あれはよく出来てるなんてレベルじゃなかったって?

 …………そんなに?

 うん? 一度お化け屋敷の中ではぐれて……?

 小さい男の子が……?

 え、なに言ってるんだよ……。

 いやいや、ぼくらふたり、あの日はずっと一緒にいたじゃないか。

 特にお化け屋敷の時はきみがぼくを離してくれなかったんだろ?

 え。そうだったけ……。

 ……いや、分かった分かった。

 そういうことにしとこう、うん……。


 ………………。

 ……うん。

 あ、そうだ。

 あの後、ふたりで観覧車に乗ったよね。

 大きな観覧車で……、そう、てっぺんを回った辺りで空に虹が架かっててさ。

 あれはキレイだったなあ。


 え。虹なんか出てなかった?

 あの時は雨が降り出して曇ってたって?

 ううん……。

 ああ、そう言われると雨が降らないと虹が出てるわけもないしなあ。

 え? ぼくは大丈夫だよ。

 うん。ごめん。

 うん、そうだったかも。そうだね。


 それよりもさ。

 あのテーマパークのマスコット、あれはないよな。

 ほら、パークの土産物コーナーでキーホルダーとか買ったじゃん。

 そうそう、あのキャラクター。ブサカワイイっていうの?

 赤いクマみたいな……。

 あ、いや待てよ。違うか……?

 むしろ青いウマっぽかった、かな……?


 え、なに。そうじゃない?

 黄色のウシみたいだったって?

 ……えーと、待って待って。何だかイメージがぐちゃぐちゃになってきた。

 さっきまで覚えてたと思ったんだけどな……。おかしいな……。

 え? 緑色のトラに似てた気がしてきたって……?

 それは……。

 うーん、どうだろうか……。

 いや、きみとの思い出が大切じゃないとかそういうんじゃなくって。

 それは本当だよ。

 でも……。


 ――ああいいさ。

 そこまで言うなら確かめてみようじゃないか。

 いや、直接行くんじゃなくて。

 テーマパークのホームページにアクセスしてみればいいんだ。

 ……ちょっと待っててよ。

 ええっと……。


 あ。

 あれ、ホームページに繋がらないな……。

 うーん…………。

 えっ!?

 廃園!?

 営業停止!?

 いつのまに……。

 ねえ、そんなのニュースになってたっけ……、ねえ――。


 あ、どこ行くんだよ。

 え、そんな……。

 あ、ごめんごめん!

 言い過ぎた!

 ぼくが悪かった!

 おい! ちょっと待ってって!

 ああっ!! ねえ、待ってってば……!!




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る