設定が「強引」? それを言うなら「going」
- ★★★ Excellent!!!
聖夜に活躍するサンタクロース。彼らは皆、天界に存在する会社のスタッフ。それぞれが属するセクションにおいてそれぞれのミッションを全うするため日夜励んでいる――そんなスタッフの中に「気付いた者」がいた。己のもうひとつのミッションに。
本作は、サンタの素性を明らかにしてそこから物語を発展させるクリスマスファンタジーですが、設定にかかる説明を必要とする作品は正直難しいです――読者を置いてきぼりにして自己満足に陥る危険が大きいからです。
異能の力や異世界を題材にしたものの中にその手のマスターベーション小説が多く、能力や世界観に関する冗長な説明に「勘弁して」と思ったのは一度や二度ではありません。
ただ、同じ分量で同じことを書いてもぐいぐい引きつけられる作品があるのも事実です。それは「見せ方」によるところが大きく、読者の立場に立って、いかに簡潔にいかにわかりやすく伝えるかが重要です。分量も然りですが「設定が強引」なんて思ってしまうと興味が殺がれます。リアリティが感じられない話は一気にストレスが溜まります。
前置きが長くなりましたが、本作は設定部分の刷り込みはとてもスムーズです。最低限必要な情報をパートパートでストーリーに乗せて説明することで、読者の頭の中にスーッと入ってきます。説明パートの描き方がこの手の作品の大きなポイントであることを考えれば、この時点で本作は合格点に達しています。
物語が動いた後も、ストレスフリーで流れるように読めます。あっという間です。大部分の読者は予定調和のハッピーエンドを望んでいます。障害を設けて適度に焦らす手法も効果的で良かったです。
難しい言葉を使った、くどい描写を並べたマスターベーション小説もありますが、物語がなかなか進まないのはイラッときます。「あなたがボキャブラリーが豊富なのはわかったから、話を進めて」といった言葉が喉まで出掛かります(笑)そのあたりのさじ加減もバッチリでした。
サンタの活動はクリスマスに限られるものではありません。クリスマスに向けて常に「going(営業中)」なのです。同時に、ボクたちの執筆スタイルも確立されたわけではなく、常に「going(進行中)」――言い換えれば、進化を遂げる可能性があるのです。
長々と偉そうに言って申し訳ありません(ボク自信に対する言葉でもあります)。クリスマスらしい良作であると同時に、とても良い試みでした。これからも新たな文章にチャレンジしてください。作者にはそれだけの才能&キャパがありますからね。